287球目 チーターの脚が刺されない

 千井田ちいださんのチーター脚は、どのキャッチャーも刺せなかった。だから、今日も盗塁が成功すると信じていた。



「ちょっ、千井田ちいださん!」



 彼女は再び起き上がり、二塁へ全力で走る。人面ひとつらがボールを捕って、素早く二塁へ。ショートの洗足せんぞくが二塁に入って、千井田ちいださんの足をタッチ。



「アウト!」



 まさか、千井田ちいださんの足が刺された。



 俺達のショックは大きく、真池まいけさん、津灯つとうと立て続けに凡退してしまった。6回になっても点が取れない。



※※※



 烏丸からすまは、偵察より前に尺村しゃくむらと出会った感じがして、必死に思い出そうとしていた。



「3番ショート尺村しゃくむら君」



 あれほど背が高く、前髪で目を隠した女性なら、記憶に残っているはずだ。きっと、もっと昔に違いないと、彼は小学校時代を探ってみる。



「ストライクバッターアウト!」



 尺村しゃくむらのバットが勢いよく回り、ヘルメットが逃げた。彼女が前髪をかき上げて、目をこする。尺村しゃくむらの目が開いたのを、烏丸からすまは見逃さなかった。彼女の赤い瞳を見れば、過去の記憶がフラッシュバックする。



「そうカー! あの子は、あの時の――!」



(続く)


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