286球目 余計なものは吸い込まない

「アビリティのコピー?」



 俺が首をかしげると、東代とうだいはせきを切ったように喋り続ける。



「イエス! 私はシャクムラがベンチに戻ったサードタイムス3回、チェックしました。彼女はベンチに戻るビフォアアフターで、ディフェンス守備力やスピードがパワーアップしています」



 確かに、初回のエラー直後にベンチへ戻れば守備力が向上し、5回表にエラーが続いてベンチへ戻れば足が異常に速くなった。



「ベンチをウォッチすれば、彼女がベンチのメンバーにアプローチ接近していました。彼女が何らかのモーションをした後、ベンチのメンバーが動かなくなりました。そのメンバーはキサラギとマリーです」


木更城きさらぎはさっきヒット打ってた子ね。毬井まりいは……」


「アベレージ.167ですが、2ベースヒット2本です。スピードスターです」


東代とうだい、何を言ってんのか、さっぱりわからんガァ」



 烏丸からすまさんが、俺達の言いたいことを代弁してくれる。



「つまり、東代とうだい君が言いたいんは、尺村しゃくむら木更城きさらぎに接近したら守りが良くなり、毬井まりいに接近したら足が速くなったちゅうことやね。だから、えーと、相手の力を自分の物に出来るってこと?」



 津灯つとうが要約すれば、東代とうだいがモノクルを光らせてうなずく。



「イエス、イエス! ナウ、シャクムラはマリーの力を持っています」



 相手の力を自分の物に出来るって、バトル漫画の強敵かよ。



「ネタさえわかれば楽勝やね。ガンガン打っていこー!」



 津灯つとうが笑顔で言えば、千井田ちいださんがゴロを打った。打球がショートの股下を抜けて、彼女は一塁セーフになった。



「ええ流れが来とるよ!」



 グル監はおにぎりをボール状に変えながら、俺達を鼓舞こぶする。



 千井田ちいださんはノーサインで盗塁する。ピッチャーが右の大岩おおいわから、左の猫屋敷ねこやしきに替わっても、何回も牽制けんせいされても、初球から走った!



(続く)

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