280球目 完全試合はめったに見れない

 複雑な握りのバルカンチェンジを投げる。いつものチェンジアップよりやや速いボールだ。



 尺村しゃくむらのバットが空を切った。しかし、低めを意識しすぎて、東代とうだいが捕れないボールになってしまった。



「やったわ。ポポポポポー!」



 尺村しゃくむらが一塁へ猛ダッシュ。東代とうだいがボールを投げる頃には、一塁に到達していた。



 クソ―、完全試合パーフェクトゲームを逃しちまった。だが、まだノーヒットノーランが残っている。



 4番の菊田きくたの打球はショートへのゴロ。津灯つとうが二塁へ投げ、あああ、手が滑って地面に叩きつけてしまった。一・二塁オールセーフ。



「ごめん、水宮みずみや君!」


「いいよ! まだノーヒットだから!」



 次の置堀おきぼりでアウトにしてやる。



 置堀おきぼりはストレートを振り遅れて、ボテボテのファーストゴロ。真池まいけさん、ちゃんと捕ってくれよー。



「アウチ!」



 ボールのバウンドが変わって、真池まいけさんのあごを直撃した。ううう、またエラーか。スコアボードを見れば、Hの赤いランプが点灯する。



「エラーだろ、さっきのは!」



 俺はマウンドの土を蹴って怒る。



「クールダウン、クールダウン! ネクストバッターをアウトにしましょう!」


「ツーアウト、ツーアウトだよ!」


「しまっていくやん!」


 ふう、東代とうだいの言うとおり、落ち着かないといかんな。赤穂あこう大志たいし大石おおいしみたいに大量失点するのは嫌だ。



 久根くねは全身をくねくねしながら構える。遅い変化球に強いが、ストレートや速い変化球にはめっぽう弱い。ストレートをビシッと決めるか。



「ストライク!」


「うっ! ううううう……」



 突然、右肩に激痛が走った。骨をハンマーで砕いたような激しい痛みだ。俺はあまりの痛さでマウンドにうずくまった。



(続く)

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