278球目 御座候(ござそうろう)は全国で通用しない

 浜甲はまこう学園の応援スタンドには、満賀まんが校の龍水りゅうすい黒炭くろずみがいた。



黒炭くろずみ水宮みずみやはどう打つと思う?」


「引っぱると思います。ツーベースヒット狙いです」



 4回表、浜甲はまこう学園は1死1塁で、4番の水宮みずみやを迎える。外のボールが続き、カウントは2-0だ。



 3球目はアウト中にストレートが来る。水宮みずみやはコースに逆らわず、流し打ちした。



「アウト!」



 鋭いライナー性の打球だったが、尺村しゃくむらに捕られてしまった。



水宮みずみやは強打者と言うより、好打者や。前の試合でも、悪藤あくどうのカットボールを腕たたんで打ったり、俺のドラゴン・チェンジアップをバントしたり、器用やからな」


「なるほど。1年のくせに、中々やるなぁ」



 黒炭くろずみはメモ帳に龍水りゅうすい監督の言葉を書いた。



 水宮みずみやは3回までヒット1本も打たれぬ完全試合パーフェクト・ゲームを続けている。しかも、9人中7人から三振を奪っていた。そんな彼の好投に、打線が中々応えられない。



「また、尺村しゃくむらが荒ぶってるで御座候ござそうろう



 2人の横に太眉の男が座ってきた。その男は、達筆で大志と胸に刻まれたユニフォームを着ている。



「おう、赤穂あこう大志たいし大石おおいし君か。ってことは、前の試合も尺村しゃくむらにやられたのか?」


「さよう。4回に尺村しゃくむらと目が合ってから、急にストライクが入らんくなったで御座候ござそうろう。さらに、ことごとく尺村にファインプレーされて、4・5点ぐらい損したで御座候ござそうろう



 大石おおいしは座席上で正座になり、水筒の茶を音を立てて飲み始める。



「つまり、尺村しゃくむらと目が合ったら、不吉なことが起きるんですね?」


水宮みずみやぁ! 尺村しゃくむらと目ぇ合わせんなぁ!」



 龍水りゅうすいが叫ぶも、時すでに遅し。マウンド上の水宮みずみやは、前髪をかき上げた尺村しゃくむらと、しっかり目を合わせていたのだ。



(続く)

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