270球目 八尺様に遭遇したくない

 満賀まんが校の龍水りゅうすい監督と黒炭くろずみが、摩耶山まやさんで山登りダッシュをしている。



「ハァハァ。キツイっスねー、この坂」


「この程度でへこたれとったら、9回投げられんで」



 満賀まんがの新エース・黒炭くろずみのスタミナ強化のために、ワンツーマンレッスンだ。



「はいっ! 頑張ります」



 しばらくして、彼らは山の中腹で休憩を取る。黒炭が水筒の水をがぶ飲みする。



「監督、暑いですねー。龍になって雨降らして下さいよ」


「あかん。こういう暑い中で練習してこそ、力になるんや」


「はーい。わかってますよ。あー、僕も龍はムリとして、みずちしんみたいな龍の眷属けんぞくに変身出来たらなぁ」



 黒炭くろずみは空を自由に駆ける自分を想像して、頬を染める。



「それなら、中国の四川省しせんしょう変化へんげの滝っちゅうのがあるで。その滝に三日三晩打たれると、何かしらの動物に変身できる体質になれるぞ」


「マジっすか? 僕はトカゲやイグアナになりたいなー」


「ただ、変身は完全に運任せやから、筋肉モリモリの人がスナネコ、セクシーな女性がカバになっとったな」


「うーん。僕は運が悪い方やからなぁ」


「ポッポポポポポッポポポポ」



 どこからか鳩のような鳴き声が聞こえてきた。彼らは辺りを見渡すが、どこにもそれらしきものは見当たらない。



「なっ、何やこれ……」


「もしかして、八尺はっしゃく様(※注)じゃ……」



 冷や汗をかく2人の前に、しげみから巨大な女性が現れた。彼女は麦わら帽子をかぶっていて、ポポポと奇妙な声を発していた。



「うわぁ! 八尺はっしゃく様やぁ!?」



 黒炭くろずみは水鉄砲を女性の顔にぶっかける。



「つめたっ! 鳩のモノマネしとっただけやのに」



 その女性は人間の声を発した。



「すみません。うちの部員が失礼なことを……」



 龍水りゅうすいが手を合わせて謝罪する。



「気にせんといてね。ポッポポポポポッポポー」



 謎の女性は鳩のようにあごを突き出しながら、林の中へ入って行った。



「見たか、黒炭くろずみ


「ええ、見ました。何なんですかね、あれ……」


摩耶まや高校のユニフォーム着とったで、あの女。浜甲はまこう、大丈夫か」



 龍水りゅうすい黒炭くろずみの前に現れた奇妙な女性。この女性が、次の試合のキーパーソンになるかもしれない。



(続く)



※注

八尺はっしゃく様……とある村で封印されていた怪異。八尺(240㎝)の長身の女性で、子どもを襲うらしい。ターゲットに近い人物の声を真似る能力がある。

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