269球目 摩耶が強いか弱いかわからない

 終業式の後、俺達は家庭科室に集まって、4回戦に向けたミーティングを行う。



「4回戦の相手は摩耶まや高校です。このチームの3試合のスコアを振り返ってみましょう」



 津灯つとうはパワーポイントを使い、学校の授業風にスライドショーで映す。



「スゲー。うちなんか、ほとんど野外授業やのに」



 六甲山ろっこうさん大縞おおしまさんは目を真ん丸にしている。青空教室も楽しそうだが、梅雨や夏や冬の時期は嫌だな。



「1回戦は湯之浜ゆのはまと戦いました。この試合は偵察ていさつメンバーが行ってません。新聞記事によれば、相手のエラーに乗じて6点を奪い、8-5で勝ってます」



摩耶000 200 006……8

湯浜100 003 001……5



「次の2回戦は、シード校の赤穂あこう大志たいしとの試合です。この試合では、パソ研の方々が偵察に行かれてます。解説、お願いします」



 津灯つとうに代わって、パソ研の丸メガネの男が教壇に立つ。



「はい。動画で撮影していたので、ダイジェストでお送りします」



 スライドに重たそうなボールを投げる大石おおいしが映し出される。摩耶まやのバッターが降り遅れの空振りを繰り返す。



「ご覧のとおり、大石おおいしは3回まで8奪三振のパーフェクト、4回表も2つ三振を奪ってツーアウトでした。しかし――」



 突如として、画面が暗転し、万華鏡まんげきょうのような画面に変わった。極彩色ごくさいしょくで目がチカチカする。



「急にコントロールを乱し、6連続フォアボール。大石おおいしから控えピッチャーに代わるも、3連続エラーでこの回8失点でした」



 4回表が終われば画面が通常に戻り、赤穂あこう大志たいし打線が打つシーンが続く。



赤穂あこう大志たいし打線に9回までに10点を取られるも、最終回に3連続ヒットを打ち、暴投でサヨナラ勝ちをおさめました」


「あれ? 最終回の映像は?」


「申し訳ありません。ちょうどバッテリーが切れまして」



 肝心な摩耶まやの得点シーンが見られなくて残念だ。



赤穂201 010 321………10

摩耶000 800 003×……11


 

 3回戦の宝塚たからづか華楽ががくも、摩耶まやの得点シーンで映像が砂嵐になって、よくわからなかった。



摩耶000 200 002……4

宝塚010 000 101……3



「スリーゲームスで23点、よく打つチームですね」


「いいえ。打率(※注).177で、意外に打ってませんよ、東代とうだい様」



 うちと得点数がほぼ変わらないのに、打率が半分ぐらいとは。フォアボールでよく塁に出ているのか?



「あ、あのぉ。1つ気づいたことがあるんですけど、いいですか?」



 本賀ほんががおずおずと挙手する。



「どうぞ」


摩耶まや高校の得点が、全て4回か9回に入っています」


「ホンマや! 気持ち悪ぅー」


「4と9、夜露四苦よろしくってか」



 番馬ばんばさんと真池まいけさんが立て続けに発言した。



 その後、スコアブックから色々と分析したものの、あの東代とうだいさえも摩耶まや対策にさじを投げてしまった。



 結局、摩耶まやは強いのか弱いのか、よくわからなかった。



(続く)



※注

打率……ヒットを打つ確率。安打(ヒット)数÷打数(打席数から四死球や犠打などを抜いた数)で求められる。3割(.300)以上で好打者、2割5分(.250)で並の打者とされる。なお、某国民的ロボットアニメに出てくるメガネの少年の打率は.010(100回に1回ヒットを打つ確率)。

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