255球目 デブドラゴン化が似合わない

「あー。ちょっと雨が強くなってきたかしらん」


「サッカーなら、この程度の雨問題ないですが、野球はやり辛そうですね」



 グル監と鉄家てつげ先生が天気を気にしている。コールドゲーム成立まであと2イニング、この回で最低1点は入れておきたい。



 オラゴン星人化は恥ずかしいが、やはり治してもらうしかないな。



火星ひぼし、頼むっ!」


「了解!」



 火星ひぼしの右手が俺のヒザの傷にふれると、たちまち銀色の液体が出てきて傷を覆いつくす。それは全身に広がり、シャチの表面のようにてかり出す。



 銀色の液体が俺の顔に達すると、マッサージをするように頬の筋肉をほぐし、鼻と口を前に突き出した。うわぁ、額いが裂けるように痛い。この痛みは何、あっ、収まった。



 どうやら、額に三番目の眼が出来たようだ。相手チームのユニフォームのしわの数や泥までくっきり見える。これが火星の見えている世界か。



「オー! ミスター・ミズミヤがオラ、ドラゴンに!」


「キャー、かわいー!」


「あたいの抱き枕にしたいやん!」



 チームメイトの視線が、一斉に俺に集中する。ベンチの鏡を見てみれば、俺は銀色のトカゲ系獣人になっていた。髪の毛以外は毛が1本も生えていない。洗い立ての机の表面のようにつるつるしているし、グミのようにぷにぷにしている。



「痛みが全くない。火星、ありがとう!」


「無問題!」



 火星は親指を突き立てて言う。



 それにしても、ユニフォームから出たぽっこりお腹は、どうにかならんものか。六甲山ろっこうさん牧場戦の肥満化を思い出す……。



 俺の前の津灯つとうはインコースのボールを打ち返して、ヒットで出塁した。



「ハハハ。おデブドラゴンちゃんか! かわいがってやるぜー!」



 悪藤あくどうが腹をかかえて大笑いする。



「かわいいでちゅねー」


「早くドラゴンの国におかえりー」


「ボール遊びしましょかー」



スタンドの満賀まんが校の生徒も俺をバカにしてくる。


悪藤あくどう! 銀のドラゴンは要注意や!」


「はいっ、すみません!」



 龍水りゅうすいの一言で、悪藤あくどうは真剣な表情に変わる。


 俺は4番として、悪藤あくどうのボールを打ちくだいてやる!!



(続く)

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