253球目 弱点のない球種は存在しない

 番馬ばんばさんの豪快ごうかいなフルスイングも、スライダーがあざ笑うように逃げていく。



「ストライク!」


「ク、クッソー!」



 番馬ばんばさんは鬼瓦おにがわらのように顔をゆがめて悔しがる。



「タイム、お願いします」



 津灯つとうが球審にお願いする。



「ターイム!」


番馬ばんばさん、ちょっと来て!」



 ネクストバッターズサークル内で、しゃがんだ番馬ばんば津灯つとうが耳打ちする。可憐かれんな少女と剛胆ごうたんな赤鬼の組み合わせは、まるで美女と野獣だ。



「よっしゃ、打つでー!」



 番馬ばんばさんは頭上でバットを振り回して打席に入る。構えや立ち位置はさっきと変わらない。



「ボール!」



 番馬ばんばさんは立ったまま、平然と見送る。雨でスライダーがキレ過ぎて、ボール球になるようだ。何て単純な攻略法だ。



 3球目、4球目も連続ボールになる。これで、黒炭くろずみはストライクゾーンに水流斬スライダーを入れるか、普通の球種を投げるかの二択だ。



 彼が投げたのはストレートだ。超能力を解除していないため、水流がボールにまとわりついているが、番馬ばんばさんのバットからは逃げられない。



 番馬ばんばさんのバットが、グワキイイイインと、アヒルのようなにごった快音を出した。



(続く)

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