252球目 カーブが制御できない

 宅部やかべさんがセット・ポジションから左足を上げた瞬間、激しい雨が降り出してきた。



 投げたボールは、左バッターの後ろへ曲がる。東代とうだいが捕り切れない大暴投だ。



「走れ、立花たちばな!」



 龍水りゅうすいの声を聞いた立花たちばなは、バットを振って一塁へ駆けだす。ボールが止まったので、まだ間に合う。



 だが、今度は東代とうだいがボールを握り損ねる。ボールの表面に雨水がついて、上手く握れないのだ。

 


 東代とうだいがしっかりボールを握って投げた頃には、立花たちばなは一塁を踏んでいた。



「セーフ!」



 打撃妨害インターフェアの次は振り逃げ、嫌な形で点を取りやがる。



 雨は小降りになったが、コールドゲームを心配しながらプレイしなければならない。2点差が重くのしかかる。



 8番の武庫むこを打ち取り、5回表の攻撃へ移る。9番の宅部やかべさんからの好打順だ。



 ただ、俺の左ヒザの状態が思わしくないので、番馬ばんばさんか津灯つとうが打ってほしい。



 宅部やかべさんが死球で出塁し、番馬ばんばさんが赤鬼化して打席に立つ。ライトからは鬼殺しの黒炭くろずみが笑顔でやって来た。



「同じ失敗は繰り返さへんで―」



 番馬ばんばさんはバットの根元を握る。いつもよりバットを長く持って、黒炭くろずみ水流斬スライダーを打つつもりだ。



「恵みの龍雨たつさめ、ありがとう」



 黒炭くろずみ横手サイドからスライダーを投げた。番馬ばんばさんは目一杯手を伸ばして振る。



(続く)

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