251球目 ゲッツー崩しを喰らいたくない

 俺は津灯つとうからの送球を捕って二塁ベースを踏む。これで悪藤あくどうはアウト。次は一塁へ投げ、うああああああ!



 悪藤あくどうのスパイクが俺の左ヒザをえぐった。クソ痛い……。



 本賀ほんがさんが慌ててやって来て、包帯を巻いてくれる。ヒザの血が包帯に染みこむ。ジンジン痛んで、立てるかどうか。



「外野で休むか、水宮みずみや?」


「いいえ、大丈夫です」


「あんのクソ野郎、汚い真似しおってからにー!」


「番馬さん、落ち着いてや」


 俺は山科やましなさん達に心配ないと、首を横に振る。ゆっくり立ち上がり、右足の方に力をかける。両足で立ってるように見えるが、その実、片足立ちだ。過去の経験から、ここで両足に負担をかけたら、左ヒザが悲鳴を上げるだろう。



 とにかく、この回は俺の方に打球が飛んでほしくない。次の潮江しおえは完璧なバントを決め、東代とうだいが一塁へ送球した。これで2死2塁に。



 ここで、本日のキープレーヤー・黒炭くろずみが打席に立った。東代とうだいは迷わず立って、敬遠を指示する。



 そう、それでいい。もし勝負なんかしたら、俺の所に打球が来て、エラーするかもしれねぇからな。



 宅部やかべさんはポーカーフェイスを保ったまま、黒炭くろずみを歩かす。これで2死1・2塁。7番以降は前の試合からノーヒットなので、問題ない。



 二塁上から龍水りゅうすいがサインを出している。ここで仕掛けるとしたら、ダブルスチールかセーフティーバントか。



「バッターに全集中です、エブリワン!」



 さすが東代とうだい、そこら辺は抜け目がない。宅部やかべさんは龍水りゅうすいに三塁を盗まれても、立花たちばなをあっと言う間に2ストライクに追い込んだ。



 三塁ランナーの龍水りゅうすいは後ろ手を組んだまま、宅部やかべさんをじっと見ている。細目の間からのぞく赤い瞳。妖しく光って何を思うか。



(続く)

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