250球目 むやみにバットを投げない

宅部やかべカオル視点です



 4回表まで終わり、スコアは0-1。



 下位打線は悪藤あくどうのインコース攻めで凡退するし、俺の次の番馬ばんばさんは黒炭くろずみに抑えられるし、もうこれ以上の失点は許されへんな。



 4回裏の先頭打者は悪藤あくどう龍水りゅうすいの前にランナーを出したくないので、何としても抑えたい。



 東代とうだいのサインはアウトコースのスローカーブ。今日は俺好みの外中心のリードしてくれるから、めっちゃ嬉しい。龍水以外にはヒット打たれてへんからな、今日の俺。



 全力で投げつつ、実態はスローカーブ。はい、悪藤あくどうは空振りー、うわっ、バット!



 悪藤あくどうが投げてきたバットを、“ダンス・イン・ザ・リバー”でつちかった反射神経でよける。昔の野球漫画みたいなセコい真似しやがって。



「悪い悪い。緊張するとバット投げてまうねん」



 悪藤あくどうがマウンドにやって来て、白々しい言い訳をしてくる。俺は鼻くそをほじった手でバットをつかみ、奴に渡す。



「はい、どうぞ」


「悪いなぁ。カァー、ペッ!」



 きったなぁ。俺の右手にダイレクトにつばを飛ばしやがった。こいつ、絶対に抑えたる。



 しかし、抑えようと力み過ぎて、フォアボールになってしまった。マズい。



「4番ピッチャー龍水りゅうすい君」



 泰然自若たいぜんじじゃくとは、まさにこの龍水を表している。



 無言でスイングせず、打席に立つ。1ミリも動かない不動の構えは、相手投手を威圧するのに充分。



 俺はビビったフリをして、2球連続でボール球を投げた。そして、3球目にストレートをアウトローへ。



 ストライクを取りにきたボールは甘くなるケースが多いから、当然打ちにくるわな。でも、打球はショートの津灯つとうの守備範囲のゴロや。



 よっしゃ! 狙い通りのゲッツーコースや!



(続く)

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