249球目 イケメンの打球がイケてない

「チャラつきやがって、クソ野郎!」


「さっさと三振、三振、さんしーん!」


「てめぇは悪藤あくどうさんのボール打てっこねーよ!」


 山科やましなさんの打席の時はいつも聞こえる黄色い声援せいえんが、満賀まんが校の赤い野次にかき消されてしまう。山科やましなさんは蛇ににらまれた蛙のように、打席内で固まっている。



山科やましなさん、リラックス、リラックス!」



 山科やましなさんは肩を震わせて、こぢんまりした構えをする。ヒザを合わせて、女の子のようなポーズだ。ちょっと、先パーイ……。



 初球、悪藤あくどうのボールを見送る。打つ素振りすら見せないダメな見送り方だ。



「タイム、お願いします」


「ターイム!」



 俺は二塁ランナーの津灯つとうの元へ行って、例の作戦を告げる。



山科やましなさんのためを思って、なっ?」


「うん。チームのためになるもんね」



 これで山科やましなさんは目覚めるはずだ。俺は一塁へ戻る。



 悪藤あくどうが投球モーションに入ると同時に、津灯つとうは口をすぼませて叫ぶ。



山科やましなさーん、ここまで打ってぇー❤」



 山科やましなさんの目に生気が戻った。彼はインコースのストレートを思いっきり引っ張った。



「ファール!」


「キャー❤ 今度はこっちに打ってぇ❤」


「任せたまえ。僕はうさちゃんの期待に応えるで」



 山科やましなさんは鼻息荒く、大股おおまたを開いて構える。いつもの山科さんに戻って良かった。



 3球目、アウトコースのスライダーを流し打つ! これはヒットになるぞと全速力で走り出せば――。



「アウト! チェンジ!」



 打球は龍水りゅうすいの右手グローブの中に入っていた。右投げの一塁手ファーストならライト前ヒットなのに、惜しい……。



 3回表、またもや俺達の攻撃は0点に終わった。



(続く)

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