248球目 デッドボールの痛みはガマンできない

 真池まいけさんがバントをきっちり決めて、2死3塁になった。津灯つとうがホームベース寄りに立って、悪藤あくどうのボールを待つ。



「同点タイムリー打っちゃえー、津灯つとうちゃん!」



 一塁ベースコーチャーの千井田ちいださんが声を張り上げる。津灯つとうはヘルメットの位置を調整し、バットを構える。



「死ねぇ!」



 悪藤あくどうがセット・ポジションからインコースへ、ああ、スライダーが津灯つとうの頭に!?



「デッドボール!」



 彼女は右の脇腹を押さえてうずくまる。顔が真っ青だ、ヤバイ。



「てめぇー、ワザとぶつけたなぁゴラァ!」



 千井田ちいださんが悪藤あくどうに殴りかかろうとする。



千井田ちいだ、落ち着けぇ!」



 番馬ばんばさんがベンチから飛び出して、彼女を羽交い絞めにする。浮き上がった彼女は手足をバタバタさせるが、鬼の腕力わんりょくの前には無力だ。



「放してやん!」


「あいつのカタキは水宮みずみや山科やましなが取るから、大丈夫や」


「わかったわぁ。水宮みずみや、打てやん!」


「はっ、はい」


 千井田ちいださんにハッパをかけられずとも、このピッチャーの風上にも置けないデッドボーラー・悪藤あくどうは許せない、打ち砕く。



 俺はホームベースから離れて構える。外のコースに届きにくくなるが、デッドボールよりマシだ。



「殺す!」



 悪藤あくどうの勢いあまった投球は、ワンバウンドになった。俺は右足を上げてよけようとしたが、左足の方に当たってしまう。



「デッドボール!」



 初回にヒットを打たれた2人を死球デッドボールで歩かしてきたか。だが、2死満塁で迎えるのは、シュアなバッティングの山科やましなさんだ。



山科やましなさん、頼んます!」


「あっ、うん……」



 山科やましなさんは蚊の鳴くような返事をした。



(続く)

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