247球目 打撃の鬼が中二病ピッチャーを打てない

「超能力者か。ほんなら、こっちも使わせてもらうで」



 番馬ばんばさんはバキバキと剛力ごうりきの赤鬼と化す。黒炭くろずみは冷ややかな笑みを浮かべて、ボールをもてあそんでいる。



「なに笑っとんねん! さっさと投げぇ!」



 番馬ばんばさんが怒鳴っても、黒炭くろずみは全くおびえない。



 空気をたっぷり吸って、サイドハンドから例の水流斬スライダーを投げてきた。



「どりゃあああああああ!」



 再び番馬ばんばさんのバットが空を切る。さっきのリプレイを見るがごとし。



「ストライク!」



 宅部やかべさんが二塁へ走っていたが、バッテリーは全く無関心だ。きっと、三塁まで進まれても、番馬ばんばさんに打たれない自信があるのんだろう。



「ク、クソがぁ。烏丸からすまぁ、バット借りるぞ!」


「おー。ホームラン打っちゃってくれ」



 番馬ばんばさんが烏丸からすまさんの細長バットを借りる。逃げるスライダーをとらえるためには、いつもの短いバットより確実だ。



「おっしゃああ! 来い!」



 黒炭くろずみは1・2球目と寸分違わぬフォームで投げだす。水しぶきを辺りに散らしながら、ボールが曲がっていく。



「うがああああああ!」



 ボールが番馬ばんばさんのバットに当たる。だが、水流があざ笑うようにバット上をすべり、キャッチャーミットの中に収まった。



「ストラックアウト!」



 番馬ばんばさんは空振りした姿勢のまま固まる。一言も発さず、虚ろな目はキャッチャーミットの中のボールを見ている。



 黒炭くろずみはライトへ向かい、悪藤あくどうとグータッチをかわす。番馬ばんばさんを殺すためのワンポイントか!?



 まだ3回表でスコアは0-1なのに、浜甲はまこうベンチに暗雲がただよい始めた。



(続く)

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