246球目 フィンガー・ウォーター・ガンを使い過ぎない

 黒炭くろずみ樹花じゅかは小4の頃、よく炎天下えんてんかで友達と遊んでいた。



「くらえー、水でっぽー!」


「うわっ、つめたっ! ファイアー・ボールをくらえっ!」



 彼は友達が口から出す小さい火の玉をよける。再び友達の顔目がけて、人差し指から水鉄砲を発射する。



「うわぁ、目があああ!」


「ハハハ。ボクの勝ちー、あれ?」



 急に彼の視線がぼやけて、まっすぐに立てなくなる。友達の声が遠くなり、意識がブラックアウトした。



※※※

 


 彼が目覚めたのは病室だった。右腕に点滴てんてきのチューブがついている。



「ああ、良かった。目覚めたな、樹花じゅか。フィンガー・ウォーター・ガン使い過ぎたらアカンって言うたやろ? このアホ―!」



 彼の父が目を三角にして声を荒げる。



「ごめん、パパ。つい楽しくって」


「フィンガー・ウォーター・ガン使う時は、ちゃんと水分補給せい。あと、ヤバイ思たら、周りの空気吸って、体ん中の水を増やすことやな」


「うん。気ぃつける」



 彼は父の言葉を忘れなかった。



 熱中症で倒れてからは、常に水がたっぷり入った水筒を持ち歩き、フィンガー・ウォーター・ガンを使えるようにした。



※※※



 黒炭くろずみは市内一荒れた満賀まんが高校に入ってからも、この超能力で怖い先輩を倒してきた。“インネン”をつけられても、水で目つぶしして瞬時に逃げてきた。



 いつの間にか、彼は水の魔術師まじゅつしと呼ばれるようになった。



 そんな彼の前に、龍水りゅうすいが現れる。彼の俊足を見込んでの勧誘だ。



「野球部に入らないか?」


「嫌です! 僕は水球が好きなんです!」



 彼は人差し指を龍水りゅうすいに向かって突き出し、フィンガー・ウォーター・ガンを発射した。いつもなら、相手の目に大量の水が当たる。



 しかし、龍水りゅうすいは水を両手でつかまえ、黒炭くろずみに投げ返したのだ。



「わっ! 何で?」


「悪いが、俺には水属性ぞくせいの攻撃は効かない」



 表情を一切変えずにたんたんと語る龍水りゅうすいの姿に、黒炭くろずみは一瞬でトリコになった。

 


 彼は1年の夏に野球部に入り、今に至る。



(続く)

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