244球目 打撃妨害はめったに見られない

 2ベースヒットを打った4番の龍水りゅうすいを、5番の潮江しおえが三塁に送り、1死3塁になった。



 この状況だと、ヒット、ホームランはもちろん、スクイズ、犠牲ぎせいフライ、ボーク、エラー、ワイルドピッチ、牽制けんせい悪送球、パスボール、ホームスチール、振り逃げなどなど、様々な失点パターンが考えられる。



 東代とうだいの指示で、やや前進守備で黒炭くろずみの打球に備える。さっき真池まいけさんの本塁死ホームアウトをアシストした要注意人物だ。



 初球。三塁走者の龍水りゅうすいに動きなし。ストレートが低めに決まった。



「ストライク!」



 宅部やかべさんのボールはバントしやすいが、真池まいけさん・番馬ばんばさんが猛チャージしてるから、スクイズはやりにくいだろう。



 2球目。龍水りゅうすいが走った!



「させるかっ!」



 宅部やかべさんが珍しく叫び、ボールをホーム手前でワンバウンドさせる。東代とうだいがボールをつかんで、龍水りゅうすいのスパイクをホーム手前で防ぐ。ホームスチール失敗だ。



「インターフェア! バッター、テイクワンベース! ランナー、セーフ!」



 打撃妨害インターフェア? よく見れば、東代とうだいがミットを外して、左手を押さえている。左手の甲が赤く腫れているから、黒炭くろずみのバットが捕球前の東代とうだいのミットにふれていたのか。



「ちょっと待てよ。インターフェアでバッターが一塁に行くのはわかるけど、三塁ランナーがホームインできるっておかしくね?」



 俺が津灯つとうに疑問をぶつければ、彼女は小さく息を吐いてから説明してくれる。



「三塁ランナーがホームスチールを試みとる時にインターフェアあったら、ピッチャーにボークがついて、ホームインが認められるんよ」


「マジか。そんな嫌なルールあるのか」



 当然、東代とうだいは知っていただろうが、目前のホームスチールを防ぐのに必死で、忘れてしまったのか。



 東代とうだいのミットにバットを当てたのは、故意か偶然か。



 一塁上の黒炭くろずみは口角を少し上げて、得意げな表情を作っていた。



(続く)

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