243球目 エースは1日でなれない

※今回は宅部やかべカオル視点です。



 俺は浜甲学園はまこうがくえんのエースになるんや。自分をチビと馬鹿にしてくる奴なんかに、打たれるワケにいかない。



 東代とうだいのサインは低めに縦のカーブ。俺はうなずくとすぐにモーションに入る。



「うりゃああああ! あっ?」



 プププ。バットとボールが天と地の差ほど離れてますよー。



 今日の縦のカーブは、ナイアガラの滝クラスに落差があるなぁ。選球眼がE~Gクラスの連中には、積極的に使いたいわな。



 ミスター・トーダイの指示通り、全てボールゾーンに投げても、大物だいもつは空振り三振してくれた。



「クネクネしたボール投げやがってぇ! 覚えとけ!」



 小物こものの捨てゼリフを吐いて大物だいもつはベンチへ戻る。



 続いて登場は、相手のエースや。



「さぁ来んかい!」



 投げてやるとも、お前の顔面に。モンスターにボールをぶつけて捕獲ほかくする“ミニモン”でつちかったコントロールで、悪藤あくどうの顔付近へドーン!!



「うわっ! あっぶねぇなぁ」



 悪藤あくどうはバック転してよけた。さすがケンカ慣れしてることはある。ひとまず帽子を取って謝るか。



 次のインハイのストレートを打ってきたが、腰が引けていたのでライトフライでチェンジ。




 2回表の攻撃は三者凡退で終わり、裏の攻撃へ移る。



 先頭打者は4番の龍水りゅうすい。出塁率10割のこいつを抑えれば、浜甲はまこうのエースまっしぐらやな。



 180センチ後半の奴の長いリーチを殺すため、インコースに攻める。ゲームのシミュレーションでは7割ぐらい抑えられた。この打席に関しては、俺がサインを出す。



 初球はスライダーに近いカーブ。インローのストライクになる。龍水りゅうすいは無表情で見送った。



 2球目はインハイのストレート。再び見送ってくれたので、0-2に追い込めた。



 3球目はインコースにスローカーブを投げる。インコース攻めと緩急かんきゅうのダブルパンチを喰らえっ!!



 龍水りゅうすいのバットが動く。そのスイングスピードなら空振り、ああ? 瞬時にスイングのスピードが落ちて、スローカーブをすくい上げて打ってきた。



 打球はライト線に落ち、深めに守っていた火星ひぼしが間に合わない。ツーベースヒットになってもうた。



龍水りゅうすいさん、カッケー!」


「さすが監督ぅ! しぶーいイカすバッティングー!」



 ベンチからの好評に対して、龍水りゅうすいは顔色一つ変えず小さくガッツポーズしやがる。



 生身の人間のバッティング技術を過小評価してもうた。エースの道のりはまだまだ遠いわぁ。



(続く)

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