242球目 ヤンキー相手にストレートを投げない

 満賀まんが校の選手は水宮みずみやを想定し、悪藤あくどうのストレートを打ち込んできた。だが、マウンドにいるのは、公式戦初登板の宅部だ。



「クソ―、浜甲はまこうめぇ、ナメやがってぇ」



 悪藤あくどうはベンチの床に唾を飛ばす。



「ここは、待球とカット作戦や。杭瀬くいせ、相手の全てのボール見せてくれ」


「了解でやんす」



 針金のように細く、ネズミのごとく出っ歯な杭瀬くいせが打席へ向かう。



 杭瀬くいせは2ストライクを取られるまで、じっくりボールを見ることにした。



 初球はアウトローいっぱいにカーブが決まる。100キロ台の一般的なカーブなので、杭瀬くいせはほくそ笑む。



 2球目は縦のカーブがワンバウンドのボールになった。かなり落差があったので、杭瀬くいせは振らなくって良かったと、大きく息を吐く。



 3球目は肩口から真ん中に曲がる甘いカーブだ。待球作戦が出ていなかったら打ってたと、杭瀬くいせ地団太じだんだを踏む。



 2ストライクに追い込まれた杭瀬くいせは、宅部やかべのボールをカットし始める。



 4球目のスライダー気味のカーブ、5球目の小さく曲がるカーブもファールゾーンへ打ち返した。



 しかし、6球目の揺れるカーブは、ファールゾーンへ飛ばせなかった。ショートへの平凡なゴロになってしまう。



「すみません。アウトになってもたでやんす」


「いやいや、ええぞ杭瀬くいせ。相手がカーブ中心の軟投なんとう派とわかったからな」



 申し訳ないと下げる杭瀬くいせの頭を、龍水りゅうすいはふんわりポンポンと叩く。



「こいや! ションベンカーブのチビ!」



 大物だいもつ宅部やかべを挑発する。宅部やかべの顔は能面のうめんのままだが、内心ではさっきの番馬ばんば以上に暴れていた。



(続く)

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