240球目 試合中にケンカしない

番馬ばんばさん、落ち着いて下さい!」


「君達、ここは神聖なグラウンドだぞ!」



 俺と審判の声は、赤鬼あかおに番長に届かない。悪藤あくどうに向かってズンズンと歩いていく。



「やめんか、2人とも!」



 2人の間に、満賀まんがの監督兼選手・龍水りゅうすいが割って入った。彼は細い目の間から、獲物を狙う肉食獣の眼光をのぞかせた。



「すっ、すんません、監督―!」


「おっ、おう。カッとなって悪かったな」



 番馬ばんばさんは借りてきた猫になって、一塁へ向かった。この前のミーティングで言ってた通り、龍水りゅうすいさんは威圧感のあるお方だ。



おくせずバントしなさい!」


「ヘイヘイ、バントマン、バントしてみぃー」



 ファーストの龍水りゅうすいとサードの武庫むこがピッチャーよりも前に出て、真池まいけさんを挑発する。真池まいけさんは口笛を吹いて、素知らぬ顔だ。



 悪藤あくどうはセット・ポジションから、低めのストレートを投げる。真池まいけさんはバントしたが、ピッチャー前へ転がしてしまった。ゲッツーコースだぁ!



 悪藤あくどうが二塁に入ったショートの園田そのだへ送球。園田そのだはボールを捕ると、番馬ばんばさんの地獄スパイクをよけるように、一塁へ入ったセカンドの大物だいもつへ送球する。



 ラッキーなことに、送球が大きく逸れてくれた。園田そのだの右足が一塁ベースから離れて、真池まいけさんはセーフだ。良かったぁ。



 津灯つとうがセンター前にヒットを打ち、1死1・2塁に。ここで迎えるバッターは――。



「4番セカンド水宮みずみや君」



 八木学園やぎがくえん戦は試合の引導を渡すスリーベースヒットを放つも、次の六甲山ろっこうさん牧場戦では3打数ノーヒット。ピッチングのない今日は、バッティングで大暴れしてやる。



 IQ156東代ゲーマー宅部によれば、悪藤あくどうが左打者に投げるのは、インコースのカットボール。いつもより開き気味に打とう。



 初球は狙い通り、胸元をえぐるカットボールが来た。迷わず振りぬく。



 打球はライト後方へ落ちた。



(続く)

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