239球目 マサカリ投法は素人の肩が持たない

「プレイボール!」


「っしゃあ! ホームランや!」



 番馬ばんばさんが短いバットを持って打席に立つ。いつも最初の打席から鬼化する彼だが、今日は人のままだ。



番馬ばんばぁ! この前の借り、返させてもらうでぇ!」



 悪藤あくどうは左足を大きく振り上げ、右腕をピンと下までおろしてから、大きく腕を回して一気に振り下ろす。ダイナミックなマサカリ投法だ。



「ボール!」



 カットボールが大きく外れてボール。



「なんやなんや。ビビッとんのかいなぁ、ヘボP」


「じゃかあしい!」



 悪藤あくどうはずっと番馬ばんばさんをにらんでいる。番馬ばんばさんは悪藤あくどうなど眼中になく、ずっとセンターのスコアボードを見ている。先輩の怪力なら、あそこまで飛ばせそうだ。



 2球目もカットボールが大きく外れる。意外と小心者なのかな。



「ストライク投げろー、ストライクをー!」


「次! 次こそは決めるでー」



 悪藤あくどうは腕を振り回して、肩の緊張をほぐしている。



 3球目は内に、あっ、危ない!



 ボールが番馬ばんばさんのあごを直撃した。



「デッドボール!」



 番馬ばんばさんのあごから血がポタポタ落ちる。彼はこぶしを固めて顔を真っ赤にする。



「てめぇー! やりやがったな、こんのバンソウコウ野郎!」


「何やとぉ? ワザとやった証拠でもあんのかコラー!!」



 マウンドを下りた悪藤あくどうと、バットを投げ捨てた番馬ばんばさんが、互いに接近する。



 マズい。このままでは、ケンカで両者退場、最悪の場合は没収試合ぼっしゅうじあい(両チーム敗退になる)だ。



(続く)

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