236球目 タコ怪人は龍と相性が良くない

 高校1年の5月、悪藤あくどう朝日あさひは、通学途中に凶悪きょうあく事件に出会った。



 商店街の定食屋前で、タコ怪人が女性を襲っていたのだ。



「よくも俺をだましてくれたな、このクソアマァ!」


「く、くるしい……



 下半身がタコの8本足の男は、女性の体を数本の足で縛った上で、ある1本で首を絞めつけていた。誰も手出しができず、おろおろしていた。



 悪藤あくどう野次馬やじうまの中に混じるが、何も出来ない自分に腹立たしさを覚えた。



 その野次馬やじうまを割って、学生服の男がタコ怪人の前に現れる。



「なっ、何や、てめぇは? これ以上近づくと、てめぇもいてまうぞ」



 男はちゅうちょせず、まっすぐ近づく。タコ怪人は血走った目で「し、死ねぇ!」と叫び、大木サイズの足を男の頭目がけて振り下ろす。



 誰もが、男が再起不能の大ケガを負うと思い、目をつぶった。再び目を開けば、男がタコの足を持ち上げていた。彼の頬には緑のうろこが光っている。



「ひっ、ひいい!? てめぇも超能力者か?」


「こんだけ足あったら、1本ぐらい無くなってもええよな」



 男はタコ怪人の足を引きちぎった。タコ怪人は悲痛な叫び声と鮮血を出し、女性の体を解放して倒れた。



「あっ、ありがとうございます」


「礼はいらへんよ」



 男は何もなかったように、その場を颯爽さっそうと去って行った。


「スッ、スゲー!」



 悪藤あくどうはその後、タコ怪人を倒した男を探し当てて弟子にしてもらった。その男が、龍水りゅうすい崇史たかふみだったのだ。



※※※



 学校のグラウンドで、悪藤あくどう番馬ばんばの似顔絵を貼ったワラ人形目がけて、ボールを投げつけている。



「死ねぇー、番馬ぁ!」



 日々の鍛錬たんれんで、彼の“人にぶつける”コントロールは、精度せいどを増していた。龍水りゅうすい監督は腕を組んだまま、しきりにうなずいている。



番馬ばんば完膚かんぷなきまでに抑えて、試合にも勝つ。それが出来るかどうかは、悪藤あくどうのピッチングにかかっとるぞ」


「へへっ。任せて下さいよ、監督―」


「あっ、あのぉ、ちょっといいですか?」



 師弟の間にライトの黒炭くろずみが割って入る。彼は少しばつの悪そうな顔を浮かべてしゃべる。



「俺、自分の超能力を活かした変化球が投げられるようになったんです。見てくれませんか?」


「ええけど、しょうもないボールやったら、どつきまわすぞ」


「まぁまぁ。ヨシッ! 黒炭くろずみ立花たちばなに向かって投げてみぃ」



 黒炭くろずみ悪藤あくどうに代わってマウンドに立てば、表情がキリッと引きしまる。彼が呼吸を整えて投げたボールは、とんでもない変化をした。



(続く)

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