235球目 対戦相手の分析ミーティングは欠かせない

 夏大なつたいの日程は順調に消化されている。



 刈摩かるま良徳りょうとく学園、3年連続甲子園出場を狙う神戸ポートタウン大付属、強打の臨港りんこう学園、堅守の昇陽大姫路しょうようだいひめじも順当に勝ち上がっている。



 ただ、俺達のブロックでは、シード校の赤穂あこう大志たいし摩耶まやに負ける番狂わせがあった。ダークホース・摩耶まや、不気味である。



 六甲山ろっこうさん牧場の3年生との合同練習で、ますます俺達の野球レベルが上達してきた。



 野球のみならず、安仁目あにめさんから面白い深夜アニメ、大縞おおしまさんから麻雀マージャン夢見ゆめみさんから快眠法、名護屋なごやさんから発声法を教わった。



 今日は、3日後の試合に向けてのミーティングだ。司会進行は津灯つとうで、先生2人はいない。



「みんなに配ってるのは、この前の満賀まんが高校と灘関なんかん高校の試合のスコアブックのコピーです。八百谷やおたにさんが丁寧ていねいにつけてくれました」


「いやーん。あたしが文字キレイなん、バレてもうたぁ」



 八百谷やおたにさんが赤面してタヌキ顔に変わる。隣の白山しらやまさんは何もしていないのに胸を張っている。お前のその自信はどこから来てるんだ?



「この結果を見て、何か気づくことはありますか?」


「イエス! アイファインイッ!」



 東代とうだいは左手でモノクルをかけ直し、右手を挙げている。



「はい、東代とうだい君」


「ピッチャーのアクドゥーは、8つのデッドボールを与えていますが、フォアボールナッシングです。これはインコースにメニイメニイ投げるが、コントロールの良いエビデンス証拠です」


「いいや、あいつのことや。人にぶつけたいだけやろ」

 


 番馬ばんばさんはプリントに向かって唾を吐く。器用に悪藤あくどうの名前の部分に当てていた。



「うちのチームでは、番馬ばんばさんが満賀まんが校の選手に詳しそうですね。他に知っている選手はいますか?」


「あぁ。1番の杭瀬くいせと5番の潮江しおえ悪藤あくどうのザコ子分やから、問題あらへん。ただ、4番の龍水りゅうすい、あいつはめっちゃヤバイ奴や」



 4番の龍水りゅうすいはホームラン、2ベースヒット、四球、四球という出塁率10割の強打者だ。椎葉しいばやトラじお以上に怖いバッターかも。



「どんなトコがヤバいん?」


「奴の前に立つと、何ちゅーか、何かににらまれたナントかで、とにかく全く動けなくなるんや」



 2メートル近い赤鬼あかおに番長を圧倒するなんて、ますます気になる人だ。



「発言してもええか?」


犬縞いぬじまさん、どうぞ」


「はいっ。って、君は他校の選手名を間違えるって、ひどいやんけ」


「他校の選手をデブにした人よりマシでしょ」



 俺がくぎを刺すと、大縞おおしまさんは引きつり笑いを浮かべる。



「えーと、デッドボールを恐れず打って行ったら、浜甲打線なら5、6点ぐらい取れると思う。5点あれば、龍水りゅうすいにオールソロホームラン打たれても勝てるし」


「なるほど。必勝法は踏み込んで打つ、龍水りゅうすいの前にランナーを置かないということですね!」


「よっしゃ! 悪藤あくどうは俺様が抑えたるでー!」



 番馬ばんばさんのピッチングは心臓に悪いので、また見たくない。



八百谷やおたにさん、満賀まんが校の龍水りゅうすい君以外のバッターが、どんなボール打ったか覚えてます?」


「うーんと、えーとー」


「ワシはちゃんと覚えとるで。3回の杭瀬くいせはスライダー、6回の大物だいもつ潮江しおえはストレートをジャストストミートちゃんや」



 おっ、白山しらやまさんが役に立った。ピノキオのように、キツネ鼻を高々に伸ばす。



 津灯つとうは黒板にスト・スラの速球系強い、スローボール弱いと書く。チョークを置くと、神社のさい銭箱前のように手をパチンと叩く。



満賀まんが校戦の先発ピッチャーは宅部やかべさんで決まり!」


「へっ?」



 宅部やかべさんは小型ゲーム機から顔を上げて、寝耳に水状態だ。ゲーマーのピッチャーがヤンキー打線を抑えられるかなぁ……。



(続く)

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