237球目 ゲーマーは睡眠をとらない

 ついに、満賀まんが校戦が明日に迫った。しかし、肝心かんじんの先発投手予定の宅部やかべさんが、昨夜に自宅に帰ったきり練習に来ていない。



 俺と東代とうだい津灯つとうの3人は午後練を抜けさせてもらって、彼の家を訪れた。



 宅部やかべ家の扉は、相変わらず色んなキャラのシールが貼ってある。人気番組「激ヤバ! ファミリー」のステッカーもある。最近、出演したのだろうか?



「いらっしゃーい。カオルの友達の皆さぁん!」



 アフロ頭の四角いメガネの宅部やかべパパは、全身が常にクリオネのごとく動く元気の塊だ。“静”を体現する息子と対照的である。



「あのー、カオルさんいますか?」


「あぁん。あの子ったら、ずっとこもりっきりなのよぉん! カオル! 水宮みずみや君たちが来たわよぉん!」



 宅部やかべパパが息子のドアを叩くと、中から「入っていいよ」と声がする。俺達が入れば、充血した目の下にくまができたゲーマーが、半狂乱はんきょうらんの笑いをしながら野球ゲームをしていた。



「フヒヒヒヒヒ。これで、抑えたる」



 TV画面では、浜甲はまこう満賀まんがというチームが戦っている。マウンド上には宅部やかべ、バッターは龍水りゅうすい……、ゲームで明日の試合をシミュレーションしている!?



 宅部やかべの縦のカーブを龍水りゅうすいが引っ張り、ファーストへの強いゴロに。ファーストの真池まいけがトンネルして、三塁ランナーが還ってきた。



真池まいけのクソがぁ!」



 宅部やかべさんがコントローラーを床に投げつけた。



宅部やかべさん、宅部やかべさん!」


「はっ? あぁ、君達か。悪い、悪い。ゲームやってたら時間忘れてもうて。もう10時か?」


「いえ。今は1時半です」



 津灯つとう鳩時計はとどけいを指差して言う。



「えっ? 24時間もやってたんか!」



 恐るべしゲーム中毒者ジャンキーだ。息子がこんなに長くやってて怒らないばかりか、ずっとニコニコしてる宅部やかべパパもおかしい。



「まだまだやんなぁ、カオル。私は全盛期にぃ、3日連続やったことあるよぉん」



 宅部やかべパパの方が人間やめてた。きっと、ゲームに関する超能力を持っているに違いない。



「ハマコーはマンガハイスクールに勝てますか>」


「五分五分やね。俺のスタミナが持てば、勝率は9割近くなるけど」


「先輩、今日の夜はゲームやったらダメですよ」


「ハハハ。気ぃつけるよ」



 宅部やかべさんは笑いながらゲームを終わらせた。なーんか、信用できないなぁ。



※※※



 案の定、学校でも夜遅くスマホゲームをしていた。俺と山科やましなさんは強制的にスマホを取り上げ、鉄家てつげ先生に預けた。ゲームのない宅部あやかべさんはミイラのようにひからびて、眠りについたのだった。



(続く)


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