233球目 水たまりが視界に入らない

 柳内やぎうちはあと一歩でボールが捕れた。しかし、水たまりに足をとられて、つまずいてしまう。ボールは芝生しばふに落ちて、彼のグローブから逃げるように転がっていった。



「チクショー」



 彼は草を引っこ抜いて、口の中へ入れて噛んだ。



 浜甲はまこうの選手は次々とホームインし、バッターランナーの千井田ちいだも還ってきた。ついに、浜甲が7-5で逆転した。



 六甲山ろっこうさんナインはうなだれて、微動だにしない。



 浜甲はまこうナインは千井田ちいだを胴上げして、お祭り騒ぎだ。



 三塁側スタンドの悪藤あくどう龍水りゅうすい監督はすっくと立ち上がる。



「良かったな、悪藤あくどう番馬ばんば殺し、見せてくれや」


「はい、監督! おい、てめぇら! 学校に戻るぞ!」


「あーい!」



 満賀まんが高校の選手はゲームセットを聞かずに帰って行く。


 


 9回裏、浜甲はまこうはクローザーの取塚とりつかを送り、六甲山ろっこうさんの代打攻勢を三者凡退に抑えた。



 かくして、浜甲はまこう学園が六甲山ろっこうさん牧場を7-5で破り、三回戦進出を決めたのだ。



※※※



 試合終了後、球場近くの公園でミーティングしている俺達の元に、六甲山ろっこうさん大縞おおしま安仁目あにめがやって来た。



「変な牛乳飲ませて、ごめんなさい!」



 2人は見事な土下座ポーズで平謝りする。



「ホンマに、このガキャア、セコいマネしくさって」



 番馬ばんばさんがこぶしをポキポキ鳴らして2人に近づく。とっさに山科やましなさんが彼の前に立ってなだめる。



「まぁまぁ、落ち着いて。俺達は勝ったし、相手も謝ってんやから。ねっ?」


「フン! 謝るだけやったら、サルでも出来るわ! もっと、何かないんかい?」


「はい。そのおわびとして、六甲山ろっこうさんの3年が浜甲はまこうの練習相手になります」


「ボール磨き、データ整理など、雑用なんでもこなすでござろう!」



 練習人数が増えるのは嬉しいが、浜甲はまこうの強さの秘密を暴かれてしまう恐れがある。グル監を見れば、天使の微笑みを浮かべている。



「いいですよー。一緒に甲子園目指しましょう」


「「あーりがとーございーますっ!」」



 2人は何度も額を地面にぶつけながら、平伏へいふくしていた。血が出てるぞ……。



 


 1回戦はインチキバット、2回戦は肥満化ひまんか妨害ぼうがいがあったが、いずれも勝てた。3回戦はどんな妨害ぼうがいがあっても、勝てる気がする。



 次は投打の両方で活躍するぞ!



浜甲学010 000 006……7

六甲山310 000 100……5


(4回表終了)

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