232球目 ヤギは打球をあきらめない

 時は先週の土曜日、浜甲はまこうVS六甲山ろっこうさんの5日前にさかのぼる。



 浜甲はまこう学園と八木やぎ学園の試合を観戦した大縞おおしまは、学校に戻ると全部員を会議室に集めた。



「俺らの相手は浜甲はまこう学園や。軽打、強打、バント、盗塁、あらゆるバリエーションの攻撃で13点取りよった」



 大縞おおしまは両手の上にあごをのせ、深刻な面持ちで喋る。



「でも、浜甲はまこうの相手は弱小・八木やぎ学園やろ。そんなん参考にならんでござる」


「いやいやいや。浜甲はまこうは先月、練習試合で阪体育大付属はんたいだいふぞくの1軍に勝っとるからな。ナメたらコールド負けするで」


「高校最後の試合がコールド負けは嫌コケ―」


「オレのサブマリンで抑えるから安心してや、先輩方」


「春に良徳りょうとく打線にボコボコにされた豊武とよたけが言うかー」


「うっさいヤギ! オレのペガサスフライで三振の山築いたるねん!」


「みんなー、落ち着いて―❤ この牛乳飲んでみて―❤」



 皆は戸神とがみが持ってきた牛乳瓶ぎゅうにゅうびんを紙コップに移して飲んだ。数分後、室内は肉塊にくかいでぎゅうぎゅう詰めになった。



「こんな姿じゃ、駿足が鈍足だブビン」


「これ元に戻るんガウなぁ、戸神とがみぃ!」


「2時間ぐらいで元に戻るよ❤ 私のパパにも飲ませてみたから❤」



 大縞おおしま戸神とがみの発言を聞いてひらめいた。



「せや! 浜甲はまこうの選手にミルク飲ませて、デブにしたらええガウ」



 大縞おおしまはホワイトボードに肥満化ひまんか作戦の全容を書く。



「どや? 鈍足になった浜甲はまこうナインは、内野ゴロ打ったら全部アウトガウ。つまり、豊武とよたけの低目のピッチングが生きるガウ!」


「オー! さすが犬縞いぬしま、ブフフフフフ」


大縞おおしまや! ガウガウ!」


「勝てそうな気がしてきたブビーン」


「私のミルクが役立ちそうで良かったぁ❤」


「あのー、ちょっと待ってくれベエェ。それって、ルール違反になるんじゃ……」



 柳内やぎうちの指摘に対して、大縞おおしまは首を横に振る。



「試合前の超能力発動はカウントされへんガウ。ミルクの効果を知らんかったとシラを切ればええガウ」


「あと、このミルクは10回ぐらい飲んだら、肥満化しなくなるよー❤ たくさん飲んで耐性つけて、試合中に私達も飲んだら、条件同じー❤」


「なるほど! それなら大丈夫だベエェ」



 こうして、六甲山ろっこうさん牧場高校の戸神とがみミルク大作戦が決まった。



※※※



 時を試合に戻そう。



 好きな先輩達との夏を1日でも長くするため、柳内やぎうちはボールを追いかける。



 千井田ちいだの打球を捕ればゲームセットなのだ。3回目制限でヤギ化が使えなくても、彼の足は速い。追いつけそうだ。



「いける!」



 彼は手を伸ばし、ボールの落下点へせまる。



(続く)

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