231球目 満塁で敬遠してはいけない

 満塁で敬遠して、9人内野シフトを敷くなんて、六甲山ろっこうさんナインは大胆不敵だいたんふてきすぎる。たしかに、今日の千井田ちいださんは4打席ノーヒットで、外野に打球が飛んでないけどさ。



 千井田ちいださんはバットをビュンビュン振って、飛ばす気満々だ。無人の外野に飛べば、ランニングホームランだぞ。



「おお怖い、怖い。食べられるわぁ」



 大縞おおしまはそう言って、獣毛が短くなり人間へ戻っていく。獣化時はストレートかスローボールの二択だったが、人間時では違う球種だろう。



「チーさん、真っすぐ一本、狙い打ちー!」



 ネクストバッターズサークルの津灯つとうの指示に、千井田ちいださんはうなずく。完全にバーサーカー狂戦士状態ではないようだ。良かった。



 三塁ベースコーチの俺も千井田ちいださんに何かしら貢献こうけんしたいな。色々と考えている内に、大縞おおしまが振りかぶって投げ始めた。



「ストラ―イクッ!」



 初球はスライダーだ。犬の時と違って、リリース寸前に握りがよく見える。ただ、ストレートとスライダーは見分けにくい。



「ストラ―イクッ!」



 ストレートを振り遅れてしまった。もう後がない。チェンジアップやフォークのようなわかりやすいボール投げてくれー。



 3球目はゆったりと振りかぶってきた。完全にナメられて、あっ、人差し指と中指の間隔がさっきより広い。シュートだ。



「シュート!」



 俺の叫び声で、チーターの眼がかっ開く。大縞おおしま動揺どうようがボールに伝わり、ど真ん中の棒球ぼうだまになる。打てぇー!



「ニャアアアアアアア!」



 打球は快音を残して無人のセンターへ飛んだ。



(続く)

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