228球目 やまない雨はない

 山科やましなさんがピッチャーフライに倒れ、番馬ばんばさんもツーストライクに追い込まれた。絶体絶命、ゲームセット寸前だ。



「タイム、タイム!」



 急に激しい雨が降り出し、試合が中断された。アマビエ天気予報によれば、15分ぐらいのゲリラ豪雨らしい。また、雨上がりで蒸し暑くなりそうだ。この汗で、肥満ひまん部分が溶けたらいいのに。



「速いんか、遅いんか、どっちかわかる方法ないんか、東代とうだい


 

 番馬ばんばさんの問いに、東代とうだいは首を横に振るだけだ。



「ノー。ワンイニングではジャッジできませんブハ。バット、打つ方法ならあります」


「ほう? それ何や」


「バントです、バント」


「バントやとぉ?」



 巨人サイズの番馬ばんばさんがちぢこまって、バントするのは滑稽こっけいだ。俺は唇を噛んで、想像笑いを我慢する。



「ツーアウト、ツーストライクからバントするのは相手もプレディクション予測しません。アンド、バントならスロー・ファスト両方にアジャストできます」


「なるほどな。まぁ、しゃあないか」



 番馬ばんばさんはバットを肩にかついで、降りしきる雨を見ている。



 その内に、雨の勢いが弱まり、雲が分かれて、青空が見えてきた。



「フゥー。また暑くなるなぁ。アレ?」



 俺の腕が炎天下の氷のように溶け始めている。溶けて落ちたものは床に、まるで牛乳のよう。顔を触ってみれば、全くふくらみがない。おお、息苦しくない。やせてる!



「何だか変ね、体が軽く」


「あー! 脂肪がない!」



 ついに、俺達は肥満ひまん体から解放されたのだ。天気と同様、俺達の心も晴れてきた。



「さぁ、反撃開始するよ!」


「おー!」



 4点差の9回2死2ストライクでも、負ける気はない。ゲームセットが聞こえるまで、打ちまくるだけだ。



(続く)

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