214球目 天狗は顔を見せない

 ショートゴロで万事休す。ところが、急に突風が吹いて、打球がショートからセカンドの打球に変わった。



「あれれー?」


「何ぃ!?」



 大縞おおしまは慌ててボールを捕り、ファーストへ投げる。烏丸からすまさんは巨体を揺らして、倒れるようにヘッドスライディングする。



「セーフ!」


「よっしゃあ! 俺様の好走塁が利いたでぇ!」



 番馬ばんばさんがホームベース上でマッスルポーズを取る。俺は烏丸からすまさんとハイタッチをかわす。



「ラッキーでしたフガ。急に風が吹ぐなんで」


「いや、ラッキーじゃないガァ。親父が天狗風を起こしたガァ」



 烏丸からすまさんがあごでしゃくった先に、袈裟けさを着た人がいる。彼は顔を両手で隠したが、長い鼻だけがニョッキリ出ていた。



「観客の妨害で無効プレイになるんじゃフガ」


「なぁに。相手が試合前に肥満化牛乳飲ませてきたんだがら、こっちもセコい手使わなアガァン」



 烏丸からすまさんはお代官様にワイロを渡す越後屋えちごやみたく、意地の悪い笑みを浮かべた。



※※※



 2回表の浜甲はまこう学園の攻撃は、火星ひぼしが三振に倒れて終了した。



 六甲山ろっこうさん牧場ナインは、足取り軽くベンチへ引き上げていく。



「モウ1点ほしいね❤ モウ1点❤」


「この回はオレに回るから、1点取れるわ」


「いいや。豊武とよたけに頼らんくても、俺1人で点取ってきたる」



 柳内やぎうちが白ヤギ化しながら、威風堂々と宣言する。



「ほーう? ほんなら、自分1人の力で1点取れんかったら、学食のオムライスおごってや」


「ああ、もちろん。そん代わり、俺1人で点取ったら、俺の目ん前で馬刺ばさし食べろや」


「ば、馬刺ばさし……」



 二の句が次げない豊武とよたけを尻目に、柳内やぎうちは大股歩きで打席へ向かう。



 自分1人で点を取る=ホームランだが、彼は156㎝53㎏で、とうてい長打が狙えるバッターではない。



「メェへへへへ。悪魔の化身の力、見せつけたるで」



 柳内やぎうちはバットを短く持って、打席に入った。



(続く)

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