213球目 寝太りに憑かれたくない

 烏丸からすまが打席に立つと、応援団の声量が一段と増す。



「打て打て烏丸からすま―!」


「肥満化に負けるなぁー!」



 烏丸からすまはバットを長く持って、豊武とよたけの投球を待つ。



 豊武とよたけはクイックモーションで、外角低めアウトローにストレートを投げた。



「ストラーイクッ!」


「サード!」


「コッケー!」



 番馬ばんば鬼突きとつ猛進もうしんで3塁へ向かう。戸神とがみは男顔負けの強肩でサードの名護屋なごやへ送球。タイミングは完全にアウトだ。



 番馬ばんばは金剛力士像の形相で「ウガァ!」と叫ぶ。



「コ、コケ―!」



 番馬ばんばの鬼迫に押された名護屋なごやは、ボールを捕りこぼしてしまった。これで2死3塁だ。番馬ばんばは武将のようにカカカと笑いながら、つま先をホームに向けている。



「ヒーン。元に戻るわ」



 豊武とよたけは人に戻り、五本指の感触を取り戻すため、グーとパーの動作を繰り返す。



 ベンチの飯卯いいぼう監督は、烏丸からすまに対して低目のボールを打てのサインを出す。



 烏丸からすま津灯つとうにいい所を見せるため、是が非でも打つ気でいる。寝太りに憑かれた時は今以上に太ったなと、少し思い出し笑いを浮かべる。父に尻を引っぱたかれて、ルームランナーを壊しながら除霊したものだ。



 人間時の豊武とよたけは120キロ前半のストレート、カーブ、シンカーの3球種。この中で、番馬ばんばのホームスチールを阻止しつつ、烏丸からすまに打たせないボールは1つだけ。



 外角低めアウトローのカーブを狙い打ち。



 烏丸からすまのバットに迷いはなかった。



 ボールは浮き上がり、バッターから逃げるように、外へ曲がる。



 烏丸からすまは両腕を伸ばし、そのボールを強引に引っ張った。しかし、ショートへのゴロになってしまう。



(続く)

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