209球目 猛牛の突進をよけきれない

 ひょっとして、猛牛娘・戸神とがみは、トラ塩級のパワーヒッターか? 東代とうだいは無難なアウトローのサインを出す。そこなら、最悪でもツーベースヒット止まりのはず。



 今出せる力いっぱい、ストレートを打者から遠い所へ。戸神とがみは「ムオオオオオオ!」と叫んで、バントしてきた。



「またバントかフガ!」


「OK。アイキャンキャッチブハ」



 東代とうだいがボールをつかんで、1塁へ。今度は間に合った。



「ムオオオオオオオオオオオ!」


「えっ? イヤアアアアアア!」



 戸神とがみの猛突進で、千井田ちいださんが吹っ飛んだ。転び回って、ボールは、こぼれてしまった!



 駿足の豊武とよたけが楽々ホームインし、1点取られた。



「グフフ。もう1点入れたら、勝率アップですね」



 3番の安仁目あにめは度の強いメガネを押し上げて、気色の悪い笑みを浮かべる。彼が体を震わすと、全身に黒い短毛が生え、鼻がだ円形になり、ポッコリお腹が出てきた。黒い豚獣人だ。



「グフフ。いいですねぇ、ブラバンが奏でるアニソン」



 彼は鼻をフゴフゴ動かしながら、バントの構えをする。こいつは苦手なタイプだから、早くアウトにしちまおう。



 高めのストレートでポップフライにしてやる。



「ストの臭い!」



 安仁目あにめがバスターで打ってきやがった。打球は火星ひぼしの手前へ。火星ひぼしの手が伸びるが、足がおいつけない。ライト前ヒットに。



「バックホーム!」



 戸神とがみが猛足を飛ばして、3塁を蹴る。火星ひぼしがワンバウンドでホームへ。これならアウトになるか?



「ムオオオオオ! どけぇ!!」



 相撲のぶつかりげいこのように、戸神とがみ東代とうだいに突進する。当たり負けしたのは、東代とうだいだった。

(※現実では、コリジョン・ルールの適用により、戸神とがみがアウトになります)



「セーフ!」



 2点目が入り、安仁目あにめは2塁上でガッツポーズをする。



「やはり、僕の鼻は犬縞いぬしまより正確ですねぇ」



 球種の臭いを嗅いだのか? いや、偶然に決まってる。



犬縞いぬしまやなくて、大縞おおしまや!」


犬縞いぬしまキャプテン、獣化して長打ちょうだ打ってちょうだい!」


大縞おおしまや!」



 安仁目あにめ豊武とよたけにわざと名前を間違えられた大縞おおしまは、人間のままで打ってきた。



 彼の打球は番馬ばんばさんがジャンピングキャッチ。やっとワンアウトだ。



「コケコケコッケー!」



 今度は騒がしいニワトリ頭の名護屋なごやが打席に入る。次から次へと変な奴らばかり出てくるな。



 はぁはぁ、体がバターみたいに溶けそうなぐらい暑い……。



(続く)

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