197球目 タイタニックを見たことがない

 木津きづのラスト・ハンズキャノンの初球。津灯つとうはバックスイングなしで打ち、真後ろのファールになった。



「当たってる、当たってる! いけいけー!」


「頑張れ頑張れ、キャプテン」



 津灯つとうはいつも通りのばくはつスマイルを見せている。対する木津きづは大量の汗と荒い息。どっちが勝つか、一目瞭然だ。



 2球目、津灯つとうの打球が前へ飛ぶ。ファーストへの強いゴロ。殿田とのだはボールを前に弾くが、すぐ拾ってピッチャーへ。だが、ハンズキャノンを抱える木津きづのカバーが遅い。



「セーフ、セーフ!」



 津灯つとうの内野安打で、2死1・3塁に。一打逆転の場面で、俺に打順が回ってきた。



「ミスター・ミズミヤ、ちょっといいですか?」



 東代とうだいに呼び止められたので、ベンチへ戻る。



「何だ何だ?」


「ここまで、ハンズキャノンヴァージョンのオール28球のセコンド秒数をカウントしたところ、アベレージ8でした」


「えっと、どういうこと?」


「セットしてから平均8秒で発射するということやね」



 宅部やかべさんの補足説明で俺はうなずく。8秒数えてからバットを振り始めたら、当たる確率が上がるというワケね。



「8秒かー。デヴィッドさん、8秒ぐらいで歌える有名なフレーズの曲知ってますか?」



 さすがの真池まいけさんでも、この無茶な質問は答えられないか。



「うーん。あっ! セリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」が8秒ぐらいや。タイタニックの主題歌のアレや」



 真池まいけさんが大サビのメロディーを鼻歌で教えてくれる。それなら、結構聴いたことあるぞ。



「ありがとうございます!」



 頭の中で「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」のサビを繰り返しながら打席に向かう。



 とうとう、タイタニック号ならぬ八木やぎ学園号を沈没させる時が来たようだ。



(続く)

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