187球目 ハンズキャノンの吸引力は変わらない

 5回表の八木やぎ学園の攻撃を三者凡退で終わらせ、裏の攻撃に移る。



 真池まいけさんがピーゴロで倒れた後、津灯つとう四球フォアボールで出塁。5回で4個目の四球だから、木津きづのコントロールは悪い方だ。某ゲームならFランクってとこか。



 グル監のサインは津灯つとうの単独スチール。盗塁を助ける空振りをしましょか。



 木津きづのボールを思いっきり空振って、キャッチャーの送球をワンテンポ遅らせる。神沼かみぬまが投げた時には、津灯つとうは2塁を踏んでいた。



「ここで使うかぁ、ハンズキャノン!」



 うわぁ。俺の打席でタイミングの取り辛いハンズキャノンかよ。



「タイム、タイム! 水宮みずみや君、こっち来て」



 グル監に呼び出されて、ベンチへ向かう。



「今から送りバントをピッチャー前に転がしてくれる?」


「ピッチャー前? 下手したらダブられますよ?」


「よく聞いて。あの筒の中にボールを入れるんは時間かかる。ということは、打球の処理も戸惑うと思わない?」



 なるほど。木津きづが左のグローブでボールをつかみ、ハンズキャノン内に入れている間に、俺が1塁に到達するってワケね。



「わかりました。きっちり“バント”決めてきますよ」



 俺は打席に入り、バントの構えをする。ハンズキャノン時はストレートしか投げないようだから、バントで当てる分はカンタンだ。



 まっすぐ転がしてピッチャー前へ。さぁ、打球の処理をゆっくりしていってね。



 ところが、木津のハンズキャノンは、掃除機のようにボールを吸って、そのまま1塁へ発射した。



「アウト!」


「そんな使い方あんのかよ……」



 呆然とする俺を見て、木津きづはあざけるように笑う。1死1・3塁になるはずが、2死2塁に。



 この回も点が取れるか怪しくなってきた。



(続く)

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