　4回表の八木（やぎ）学園打線を4人で抑え、裏の攻撃に移る。

　ハンズキャノン発動時の木津（きづ）は厄介な投手だが、通常時はバッピー（バッティング・ピッチャー）だ。

　火星（ひぼし）が身体の変形によって四球（フォアボール）で出れば、東代（とうだい）が送りバント。キャッチャーの神沼（かみぬま）が2塁へ投げるも、火星の長い手が送球より先にベースに触れてセーフ。無死（ノーアウト）1・2塁に。

「宅部（やかべ）君、大きいの狙わんでええよ。コンパクト、コンパクト」

「わかってます」

　グル監の指示に対して、宅部（やかべ）さんは力強くうなずく。今日の彼なら、どんなボールでも打てそう。

　木津（きづ）はハンズキャノンを発動しない。アウトコースに平凡なストレート。宅部（やかべ）さんは強引に引っ張る。

「うひゃあ！」

　木津（きづが）がとっさにしゃがむ。打球はレフト前に落ち、なかった。ショートの北矢（きたや）の人差し指のゾウの鼻に、ボールが吸い込まれていた。ダイレクトキャッチでアウトだ。

「北矢（きたや）さん、こっち！」

　北矢（きたや）がセカンドの大路（おおじ）に送球してツーアウト。

「大路（おおじ）、カモン！」

　東代（とうだい）が懸命に戻るも間に合わず。殿田（とのだ）が大路（おおじ）の送球をキャッチして、スリーアウト。

　何と、三重殺（トリプルプレー）で一瞬にしてチェンジ。

「くぅー、ファッキン！」

　宅部（やかべ）さんはヘルメットを地面に投げつけて叫ぶ。

「ツイてるぜ、ノッてるぜ、これは勝てる流れや！」

「勝つゾウ」

「お前ら、自分のバッティング信じて、点入れていくんや」

　八木（やぎ）学園のベンチは遠足のように浮かれている。

　それに比べて、うちのベンチは……、目が死んでいる！？　ただ1人、責任教師の鉄家（てつげ）は目がギラギラしている。

「追うより、追われる方が苦しいんや。慌てたらアカンで」

「はい！」

　鉄家（てつげ）先生の言葉で、少しだけナインの目に光が戻った。

（続く）

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