181球目 後退シフトの意味がない

 ヒットで出た宅部やかべさんを、真池まいけさんのバットで送る。浜甲はまこうの得点パターンだ。



 津灯つとうの鋭い打球は、ファーストのミットに飛び込んでしまった。



「アウト!」



 津灯つとうは「ごめん、アウトなっちゃった」と舌を出して謝る。



「大丈夫。俺が打つから」



 俺が打席に立つと、外野手全員がラバーフェンスに背中がつくほど後退する。内野手は内野と外野の境目まで下がる。



 何という極端な後退シフトだ……。



「フフフフフ。これで、君の長打は消えた!」



 たしかに、この超後退シフトなら、外野の頭を越える長打はない。



 だが、外野の前に落ちるヒットなら打てる。



 木津きづが投げたの低いストレート。狙いど、ちょっと落ち、構わん、打つ!



 俺がすくい上げた打球はセンターの前にポトリ。俊足の宅部やかべさんは一気にホームへかえる。



「チキショー! 無失点記録もナシかー」



 木津きづは天を仰いで悔しがる。



 山科やましなさんの時も俺と同じ超後退シフトを敷いて、ライト前ヒット。これで2死1・3塁のチャンス。思ってたより、いや見た目どおりのアホで助かった。



番馬ばんばさん、かっ飛ばせー!」


「フンッ!」



 赤鬼がフルスイング! した後に、ボールがくる。空振り三振だ。



「おそい、おそい、ボールが遅すぎるんやぁ!」



 番馬ばんばさんが金属バットを折り曲げる。



 追加点はなかったが、この試合に負ける気ないね。



(続く)

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