176球目 俺の球はピンポン玉じゃない

「うおおおおお! ジャム缶のフタが開けられないチカがホームランかよぉ!」


「練習試合でもホームラン打ったことないクセに!」


「明日は地球滅亡やぁ!」



 相手ベンチは狂喜きょうき乱舞らんぶし、お神輿みこしをかつぎそうな勢いだ。



 打った近森ちかもりは味方に向かって、口をとがらせて叫ぶ。



「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ! パワーなくても、ホームランぐらい打てるわい!」



 近森ちかもりは応援団に向かって手を振りながら、ダイヤモンドを一周する。ふざけたチームだ。



「アイムソーリー。初球はチェンジアップにするべきでした」



 マウンドに来た東代とうだいが頭を下げて言う。



「気にすんなよ。出会いがしらの大マグレだって」


「イエス! ネクストでアウトにしましょう」


「OK。ナイスリード頼むぜ、東代とうだい



 東代とうだいはグッと突き出した親指を見せてから、ホームへ戻る。



 2番の笹井ささいに対する初球のサインは、インハイのストレートね。のけぞらせてから、ストライクゾーンを広く使わせてもらおう。



 さっきよりも力強いストレートを投げる。笹井ささいはビビったのか、全く動かない。



「ストライーク!」


「っしゃ!」



 思わず小さくガッツポーズ。あっ、三振奪った時にしなくっちゃ。



 2球目は外のストレート。今度は笹井ささいが打ってくる。



 かわいた金属音が響いて、打球はセンター方向へ。



 まさか、2連続はやめてくれよ。



 打球は山科やましなさんの頭上を越え、ラバーフェンスに直撃する。



「ツーベースヒット! イエエエエエエエイ!」



 2塁上で笹井ささいがダブルピースしている。



 何で、何で、俺のボールをピンポン玉のように飛ばせるんだ……。



 偵察ていさつ時の打力評価3は仮の姿なのか……。



 頭が真っ白になって、機械のように投げ続ける。



 気が付けば、無死ノーアウト満塁フルベースの大ピンチになっていた。



(続く)

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