173球目 合宿が学校なのは味気ない

 ついに、明日が兵庫県の夏大予選開会式の日だ。



 我が野球部員は、大会期間中は学校で寝泊まりすることになった。



 部屋割りは以下のとおりである。



家庭科室……飯卯いいぼう先生、千井田ちいだ津灯つとう本賀ほんが

音楽室……山科やましな宅部やかべ水宮みずみや

書道室……鉄家てつげ先生、番馬ばんば真池まいけ東代とうだい

美術部……烏丸からすま取塚とりつか火星ひぼし



 長机を後ろへ移し、布団を敷いて寝る準備をする。



「それにしても、教室のメンバーはよく考えられとるね。問題起こしそうな番馬ばんばさんとデヴィッドのところに、鉄家てつげ先生やもん」



 山科やましなさんはLANEの女友達にメッセージを送りながらつぶやく。宅部やかべさんはずっとゲームに夢中だ。



「赤鬼番長とロックンローラーと同室の東代とうだいかわいそう」


「案外、楽しんどるかもよ。鉄家てつげ先生とサッカー史について話とったりして」


「あー、確かに。東代とうだいは、怖い先生でも、幽霊でも、宇宙人でも、気さくに話しますからね」



 この前、東代とうだいが近所のヤンキー達と楽しく話しているのを目撃した。



「ああいうところが、アメリカンやな。僕も、もっとワールドな男にならんとね」


「外人の女性と付き合うつもりですか?」


「せやな。ブラジルのダンサーやフランスの舞台女優と付き合ってみたいな。グーテンターク、ヴォンジョルノ―」


「グッナイ。お先に寝ます」



 宅部やかべさんはかけ布団を腹に巻いて寝る。窓は全て開けて、扇風機はかけっ放しだが、まだまだ蒸し暑い。エアコンは予算の都合上、つけたらいけないそうだ。ドケチ理事長夫人め!



「明日は神戸で行進か。僕の雄姿を球場の皆さんにお見せせんと。そろそろ寝よか、水宮みずみや君?」



 俺は「はい」と返事して、室内の電気を1つずつ消していく。



 真っ暗な音楽室では、ベートーベンやモーツァルトなどの音楽家の肖像画が、月光に照らされて妖しく光って怖い。



 宅部やかべさんは小さくちぢこまり、山科やましなさんは大口を開けて大の字で寝ている。



「明後日が試合か」



 この個性豊かな仲間たちと、もっと野球がしたい。俺は精一杯投げぬいて、全力で打って、勝利をつかみたい。



「おやすみなさい」



 俺は小声でつぶやき、布団を足にかけて寝始める。明日、兵庫県中の野球部に出会えるから、実に楽しみだな。



(夏大予選まであと1日)

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