3回表 夏大予選まであとわずか!

156球目 下手なフリは長続きしない

 練習試合ながら、浜甲はまこう学園野球部が阪神はんしん体育大学付属に勝ったことは、SNSで大きな話題になった。



 様々な高校の偵察班が見学する中、今日の練習を行うことになった。



「練習後は美味しいパンをごちそうするから、頑張ってねー」



 グル監よ、そのパンは天塩あまじおバターが塗られていないだろうな?



 ただのランニングをやった後、普通の打撃練習や守備練習を行う。事前の打ち合わせどおり、俺達はわざと下手なプレイを見せる。



「オリャー! あれっ?」



 番馬ばんばさんが尻もちをつくフルスイングをする。



「ボール、待て、待て、待って」



 外野の千井田ちいださんがネコみたいにボールとじゃれている。



「打球はっやーい!」



 津灯つとうが平凡なゴロをトンネルする。



「あたー! いってー!」



 外野の烏丸からすまさんが頭にボールをぶつける。



 俺達のへたくそ度にあきれ果てて、次々と偵察班が帰って行った。中には「阪体はんたい大に勝ったの大マグレじゃあ!」と、吐き捨てるように言って去った人もいる。



 ついに、誰もいなくなったので、グル監が笑顔でパン袋を持ってきた。



「計画どおり、ちゃんとやってくれてありがとう。じゃあ、パンを食べましょう。私が作ったバターもあるよ」



 ベンチの扇風機のコードを抜いて、トースターでパンをこんがり焼く。そのパンには黒い粒つきのオレンジ色のバターがたっぷり塗られる。



 俺は突然の腹痛を装って早退した。



(夏大予選まであと25日)

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