154球目 勝負球がチェンジアップでも構わない

「ぐぬう。恥ずかしいが、この能力を使う」



 針井はりいの目が少女漫画のキャラのようにパッチリ大きく開いて、輝きを放つ。



 サインはインコースのストレート。どんな超能力が相手でも怯まない、一球入魂!



「ファール!」



 初球から打ってきた。強いゴロのファール。当てにきてるから、コースに注意だ。



 針井はりいがまばたきすれば、普通の瞳に逆戻り。キラキラアイズはまばたきするまで使える超能力か。



 2球目はインコースに食いこむスライダー。デッドボールになるぐらい攻め込む!



「ファール!」



 ななめ後ろのファール。2ストライクに追い込めた。


 

 ラストはチェンジアップ。いかにもストレートを投げると見せかけて、リリース寸前で力を抜けって、野球バカクソ親父に言われてたな。



 天塩あまじおのようなスピードボール、刈摩かるまのようなコントロール、椎葉しいばのようなマウンド度胸は、今の俺にはない。だからと言って、ないものねだりしても仕方ない。



 今投げられるのは、全力で力を抜いたチェンジアップだ。たとえ打たれても、後ろに最高の仲間が守ってくれている。



「ラストボール、カモーン!」



 俺は左足を高く上げて、腕を良く振って、投げる瞬間、指の力を抜いた。



 針井はりいのキラキラアイズが、ゆるいチェンジアップを凝視ぎょうしする。彼が振ったバットの下をボールがすり抜ける。



「ストラック! バッターアウト! ゲームセット!」



 歓声渦巻くグラウンド。俺に笑顔で近寄って来るチームメイト。


 

 勝ったんだ。本当に勝ったんだ。



 嬉し涙を飲み込んで、俺は顔をくしゃっとさせて笑った。



浜甲学園002 000 002……4

阪体大付000 001 200……3



(続く)

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