152球目 30球肩が治っていない

 ゴリマッチョトラ塩の打球は飛距離十分だが、レフトポールギリギリのところでファールだった。



「ファール、クソファール!」



 3塁審判は判定を下した後に舌打ちした。イライラする気持ちはわかるけど、俺達の野球部の命がかかっているから、クールでいてほしい。



 俺と津灯つとう取塚とりつかさんの元へ駆け寄る。



「大丈夫ですか、取塚とりつかさん?」


「俺とピッチャー代わります?」



 取塚とりつかさんは豪快ごうかいに笑って、俺達の心配をはねのける。



「まだまだ投げられるで。安心せい」



 おとなしい取塚とりつかさんはのどちんこが見えるぐらいの大口で笑わない。まだ夕川ゆうかわさんがいている。大丈夫そうだ。



「頼みますよ!」



 俺はそう念を押して、サードの守備位置へ戻る。



 ゴリマッチョトラ塩の足元は、汗が落ちすぎて水たまりになっている。お互いに力の限りを尽くしている。燃える男同士の勝負だ!



 運命の21球目。



 取塚とりつかさんが振りかぶって、豪速球、じゃない!? チョウが飛んでいるようにフワフワしたスローボールだ。



 あああ、やっぱり、30球以上は夕川ゆうかわさんの力が使えないのかぁ!



 ゴリマッチョトラ塩のバットが動く。俺は目をつむる。



 俺の野球人生第2部、完!



(浜甲学園勝利まであと2人)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る