151球目 ゴリマッチョ虎獣人をアウトにできない

「ファールファール!」



 審判の声がやけくそになっている。ゴリマッチョトラ塩が粘ること15球。俺や烏丸からすまさんの横を猛烈な打球がかすめていった。



 取塚とりつかさんが夕川ゆうかわさんの力を使えるのはあと5球。それまでに打ち損じや空振りしてくれ!



 16球目はインハイのストレート。厳しいコースでも、器用に太い電柱腕をたたんで打つ。3塁ベンチを襲うファール。ベンチの壁が破壊された。



「ひいい! ジョージ、殺す気かぁ!」



 阪体はんたい大付属の監督がすっとんきょうな声を上げる。当のジョージは謝りもせずに、よだれをたらして焦点の合わない目でつぶやく。



「キ、キモチイイ……」



 奴は狂戦士バーサーカーモードに突入している。あいつを抑えるのは東代とうだいの頭脳じゃムリだ。夕川ゆうかわの気迫だ、根性だ、ガッツだ!



 17球目はバックネットへのファール。助かった。



 18球目は内角低めインローのストレート。地を這うような猛ゴロが俺の横に抜けていく。またファール。



 19球目はゴリマッチョトラ塩の顔面付近へ。万事休すと思いきや、強引に振りぬく。打球は3塁ベンチ上のフェンスにぶつかるファール。



「ラストワンです、ミスター・トリツカ!」



 ここで決めなければ、夕川ゆうかわさんの力が消えてしまう。



 ゴリマッチョトラ塩のメガネ越しの目がらんらんと光っている。オレンジや黒の汗が地面にこぼれ、体が溶けているように見える。それほどまでに全身の筋肉をつかっているのだろう。



「よっしゃあ! くたばれ、天塩あまじお!」



 取塚とりつかさんが振りかぶり、渾身こんしんのストレートを内角低めインローに投げ込む。150キロは出てそうな豪速球。だが、ゴリマッチョトラ塩が打ち砕く。



「あっ、やめろ、やめろ」



 打球はレフトスタンドへ一直線。烏丸からすまさんの飛翔ひしょう能力が使えないので、見送るしかない。入らないでくれ!



(浜甲学園勝利まであと2人)

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