149球目 筋肉が正義とかぎらない

※今回は天塩あまじお城治じょうじ視点です



 僕がネクストバッターズサークルに向かう前、監督が勝手に僕のバッグの中をあさっていた。



「おい、ジョージ。校長がくれた茶ぁ、飲んでへんやないか」


「僕はピカリスウェットの方が好きなんで」



 試合中は大量の汗をかくので、塩分たっぷりのピカリがいい。



「アカン、アカン! 校長の好意を無駄にしたらもったいないやろ。少しでもええから、飲んどけ」


「わかりました」



 僕は渋々、校長プレゼントの茶を飲む。やっぱり物足りない。ピカリを飲もうとしたが、そう先輩が初球ヒットで出塁したので間に合わず。



「3番ピッチャー天塩あまじお君」



 9回裏2死ツーアウト満塁フルベース。3回目の虎化を使うんは、ここしかない。



 全身を震わせると、ゾワゾワとオレンジと黒の獣毛が出てくる。口と鼻が少し前に突き出て、耳が頭のてっぺんに移る。口元のヒゲが左右にピンと出る。ユニフォームの尻の穴から、ムチのようにしなる尾が出てくる。



 普段やったら、ここで変身完了だ。しかし、体中がインフルエンザにかかったように熱い。心臓がロックバンドのドラムビートを刻む。あつい、あつい、しぬ。



 両腕がボコボコと盛り上がり、丸太のように太くなる。ユニフォームにくっきりと6つに分かれた腹筋が浮き出る。太ももがパンパンにはって、競輪けいりん選手、いや、相撲力士みてぇや。



「ワーオ ジョージ、コーンフレーク食ったんか」



 辺田へんだ先輩が目を丸くして、口をとがらせている。他のチームメイトや敵チーム、観客、審判全てが、あ然・ぼう然としている。



 この体をマッチョジカの友野とものが見たら、鼻血出してさわりまくりやろな。バットがやけに小っちゃい、これはリコーダーか?



 体中から力がみなぎってくる。今の俺なら、宇宙の果てまでボールを飛ばせる。



(浜甲学園勝利まであと2人)

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