148球目 あと2つのアウトが取れない

 取塚とりつかさんが夕川ゆうかわさんの力を借りて投げられるのは、あと27球。残り1イニングなら、おつりがくる球数だ。



 先頭の鯛家たいかを空振り三振にして、あと2人だ。



 9番の酢浦すうらはデッドボールと2安打で当たっているが、取塚とりつかさんの速球につまってファーストゴロ。よし、大事に持って、取塚とりつかさんへ投げるぞ。あっ!



 俺は石橋を叩きすぎて壊してしまった。取塚とりつかさんの頭上を越える悪送球になってしまう。ライトの烏丸からすまさんがすぐボールを捕っててくれたから、バッターは1塁止まりだ。



「何やっとるやん、水宮みずみや



 千井田ちいださんがあきれ顔で言う。



「ごめんごめん。次はちゃんとするから」



 次の打者は3本目のヒットを狙う辺田へんだか。どんなボールも飛びついて打ってくるから、厄介なバッターだ。



 初球のスローカーブに空振り。2球目もスローカーブで姿勢が崩れる。



「これもヒットの内や!」



 何とセーフティーバントをしてきた。東代とうだいがボールを捕ってファーストの俺へ投げる。慌てたのか、少し送球が逸れた。



 何とかファーストミットの先っぽに。これで辺田へんだより先に1塁を踏めば――。



「ピッピッピッー!」



 新幹線のごとく疾風はやての走り。だが、負けるものか。距離的には俺の方が近い。走れ、走れ!



 1塁には2人のスパイクのつま先がふれる。タイミングはほぼ同時。審判のジャッジは……。



「セーフ、セーフ!」


輝石きせきちゃんとのデートやぁ!」


「あっ、ああああ……」



 俺はひざをついて頭をかかえる。これで1死1・2塁のピンチ。次は粘り打ちのそうだ。



 そうはバントの構えをする。一打サヨナラの2死2・3塁にして、天塩あまじおに回すつもりか。そうはさせじと、ファーストの俺とサードの火星ひぼしはじりじり前進。



 取塚とりつかさんのストレートがそうのヒザ元へ。そうはバットを引いて打った!



「痛覚!!」



 火星ひぼしのグローブをはじくヒットに。パワー系打線が小技を使うなんてズルい。



 1死満塁フルベースで迎える打者は、猛虎もうこ天塩あまじおだ……。



(浜甲学園勝利まであと2人)

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