147球目 理事長夫人がじっとできない

 最終回に浜甲はまこう学園が阪体はんたい大付属を逆転したことで、柳生やぎゅう理事長夫人は半狂乱の状態に陥る。



「キー! 何で、何で、こうなるの?」



 彼女はパイプイスを蹴って、血走った目を校長・教頭コンビに向ける。



「だ、だ、だ、大丈夫や。うちの打線はここ一番で強いから。春の府大会決勝はサヨナラ勝ちやったし」



 寅吉とらよし校長は額の汗をぬぐいながら答える。



「そうです。それに、浜甲はまこうの守備陣をご覧なさい。実に貧弱じゃありませんか?」



 喜田きだ教頭は震える手でメガネを押し上げながら答える。



 浜甲は逆転するために、代走や代打を送った。その結果、セカンド千井田ちいだ、レフト本賀ほんがという恐ろしい守りになっている。



「お金が嫌いな人間はいない。みんな打ってくれますよ」


「ええ。わかってるわ」



※※※



 阪体はんたい大付属ベンチ前で、9人が円陣を組んでいる。寅吉とらよし監督は落ち着き払った声でしゃべる。



「俺は基本的にスタメンを代打や代走で替えない。俺が1番自信を持って出したメンバーやからな。100名を超える部員の中で、1番打つのがお前ら9人や」



 監督は1人1人の顔をのぞきこむ。皆は押し黙ったままだ。



「さて、この中で、あのピッチャーを打てないと言う奴はいるか? もしいたら、代打を送ったるぞ」



 もちろん、皆は唇をかんで無言をつらぬく。



「ほな、この回2点以上入れられるな!」


「はい!」


「絶好球だと思っても長打を狙うな! 7回と同じくコンパクトに振っていけ! 以上!!」


「はいっ!!」



 阪体はんたい大付属打線のダイナマイトの導火線に火が付いた。



 はたして、浜甲はまこう守備陣は彼らを抑えられるだろうか?



(続く)

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