145球目 鬼は宝くじを買わない

 宅部やかべさんの振り逃げ、代走・千井田ちいださんの盗塁、津灯つとうの内野安打、俺の敬遠、山科やましなさんのタイムリーヒットで、ついに同点に追いついた!



 そんな俺達の活躍に水を差すかのように、嫌な校内放送が流される。



「現在、野球第一練習場で行われている練習試合において、浜甲はまこう学園は引き分け、もしくは敗北すると、野球部が廃部になります。また、阪神はんしん体育大学付属高校のスタメンの皆さんは、勝利か引き分けで一律1万円の支給、敗北すると夏大予選ベンチスタートになります。皆さん、頑張って下さーい」



 おっさんの声だが、絶対に理事長夫人の入れ知恵だ。



 同点止まりではダメなので逆転したいところだが、次のバッターは番馬ばんばさんだ。今日は3打席連続三振で、天塩のボールに当たりそうにない。



「監督! 俺様に代打出してくれ!」



 番馬ばんばさんが仁王立ちで、グル監に直訴じきそしている。



「こういう試合は、あなたの長打が頼りになるんよ」


「今日の俺様は、悔しいが、あいつのボール打てへん。俺様よりも、確実にバットに当てれる本賀ほんがの方がええ」



 グル監と本賀ほんがが顔を合わせる。彼女は無言でうなずき、バットを取る。



「6番サード番馬ばんば君に代わりまして、ピンチヒッター本賀ほんがさん」



 バットコントロールは宅部やかべさん、津灯つとうと同じぐらいの本賀ほんがさんだ。きっと、ここでも打ってくれるに違いない。



 本賀ほんがさんはトラ塩のストレートを右に左にファール。力負けしている感じはない。スプリットは暴投の恐れがあるから投げられない。打てる、打てるぞ!



 勝負の5球目。トラ塩が投じたのは山なりのスローボール。本賀ほんがさんのバットが始動している。



 あああ、おしまいだああああああ!!



(続く)

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