143球目 津灯の打球が尋常じゃない

烏丸からすまさん、バット借りてもいいですか?」


「どうぞ、どうぞ」



 津灯つとう烏丸からすまさんの細長いバットを借りて打席へ向かう。トラ塩の豪速球をあのバットで打つつもりか?



 セット・ポジションになれば、真池まいけさんが見つけたリズムが通用しない。2球連続のストレートで、あっという間に追い込まれてしまった。



「バットを振れ、津灯つとう!」



 彼女は俺の方を向いて、さわやかな笑顔を見せる。さっきのおびえる取塚とりつかさんと違う。計算通りか?



 トラ塩はアウトコースにストレートを投げる。津灯つとうのバットがそれをとらえた。打球はサードゴロ……。



「ギャアアアア!」



 サードの針井はりいが悲鳴を上げる。高速回転ボールがグローブの皮を削っている。



「エキセレント! ミス・ツトーのロングバットが、遠心力により、ボールにランダムなサイクロン回転を与えたのです!」



 東代とうだいは目を輝かせて早口でしゃべる。そんなバカな。



 針井はりいが打球の処理にとまどう間に、千井田さんがホームへ向かう。



針井はりいさん、ボールトス!」



 トラ塩は針井はりいのトスしたボールを口でくわえる。そいて、千井田ちいださんをトラにらみ。身の危険を感じた千井田ちいださんは四つんばいのチーター走りで、3塁へ戻った。



 津灯つとうのサード強襲ヒットで、1死1・3塁のチャンス到来!



 ここで、阪体はんたい大ベンチから伝令が出る。トラ塩が腕を組んで浮かない顔をしている。



 試合が再開し、4番の俺が打席に立つ。さぁ、監督ぅ。スクイズでも、犠牲フライでも、サインを出してくれ。



 キャッチャーが立ち上がる。トラ塩がぶ然とした表情でゆるいボールを投げる。敬遠だ。



(続く)

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