※天塩（あまじお）城治（じょうじ）の視点です

　僕のクイックモーション、ベイルさんのスローイング、酢浦（すうら）さんのタッチ、全てにタイムロスはなかった。

　しかし、チーターのあの子は、すべることなく、立ったまま悠々と2塁を手に入れた。速い、次元が違う。

　彼女の足はとてもキレイだ。僕のトラの縦じまより、チーターの黒い斑点と黄色の下地のコントラストの方が美しい。じっと見つめていると、何だか胸が高鳴ってくる。

「何なん？　さっきからジロジロ見て」

　彼女が目を細め、口を縦に開けて威嚇（いかく）してくる。

「あっ、いや。何でもありまへん」

　敵チームの女性でなければ、もっと色々お話ししたいところだ。だが、今は目の前の打者に集中せんとね。

　相手はバントの構えをしている。人間時ならスプリットで逃げる。だが、トラの力なら真っ向勝負や！

　うなりを上げるストレートが、相手のバットごと後ろへ押す。バッター、キャッチャー、審判がドミノのように倒れる。

「いっ、いってぇ。あっ、ストライク、ワン！」

　打球を前に飛ばさせない。僕の力強いストレートを目の当たりにした千井田（ちいだ）さんは、大きく口を開けて立ち尽くしている。これが大阪ナンバーワンの実力や。

　2球目もバット目がけて投げる。再び、バッターが吹っ飛び、ベイルさんや審判もろとも将棋倒しになる。

「ひ、ひいい。ス、ストライクツー！」

　3球目はバッターがヒッティングに切り替えてきた。足が生まれたての草食動物のように震えている。インコースにストレートのサイン。つくづくベイルさんは意地悪なお方だ。

「ほっ。ストラック、バッターアウト！」

　これでワンアウト。例えチーター娘が三盗しても、打者がボールを前に飛ばさないかぎり、点は入らない。このようわからん試合も、そろそろゲームセットや。

「麻里（まり）ちゃん、打ってぇ！　あたいをホームインさせてぇ！」

　いくらチーター娘が叫んでも、奇跡は起こらない。圧倒的な実力差でもって、この試合を終わらせて魅せる。

　それが、僕のエースナンバー獲得へのノルマだ。

（続く）

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