141球目 振り逃げは恥だが役に立つからいいじゃない

 宅部やかべさんの空振り三振で万事休すと思われたが、キャッチャーのミットが鋭い変化についていけない。ボールがミットから出て、バックネットの方へ転々とする。



「カモーン、ミスター・ヤカベ!」



 宅部やかべさんは懸命けんめいに走る。ベイルがボールに追いつく。ファーストへ送球。宅部やかべさんの足がベースを踏む。彼が駆け抜けた後に、ファーストミットにボールが入った。



「セーフ!」


「ナイスラン!」


「サンクス!」



 1塁上で、東代とうだい宅部やかべさんがハイタッチする。



「ファーストランナー宅部やかべ君に代わりまして、ピンチランナー千井田ちいださん」



 ここで、俊足の千井田ちいださんを代走に使う。9回裏のセカンドの守りが薄くなるのは痛いが、1点確実ランナーを使うのはここしかない。



 千井田ちいださんは裸足のままチーター化けして、豹視ひょうし眈々たんたんと2塁を狙う。



 トラ塩はセット・ポジションに入ってから、素早い牽制けんせい球を投げる。



 しかし、千井田ちいださんの左脚は1塁ベースに張り付いたままなので、牽制けんせいは無意味だ。



「ジョージ! ドンと投げろー!」



 トラ塩の意識はバッターの取塚とりつかさんへ向く。トラ塩の左足が上がって、千井田ちいださんゴー!



(続く)

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