140球目 音ゲーマーはあきらめない

 泣いても笑っても最終回の攻撃だ。



 ここで逆転しないと、浜甲はまこう学園野球部は消滅する。



 俺達の前に立ちはだかるのは、メガネをかけた虎獣人の天塩あまじお。相変わらず球が走っている。



「ミスター・デヴィッド。ミスター・アマジオのリズムは、タイガー・バージョンでも同じですか?」


「おう。ノーチェンジだよ、ノーチェンジ」



 ツーシーム系は「レッツ・ダンス」、スプリットは「シュガー・ベイビー・ラブ」の“アー”から次の“アー”までのリズム。これに気づいた真池まいけさんに感謝。



宅部やかべさん、打ってー」


「任せて。音ゲー得意やから」



 音楽ゲームに強い=リズム感がある。これなら、確実に宅部やかべさんは打てる。



 トラ塩の初球はツーシーム。宅部やかべさんのバットに当たって、真後ろにファール。タイミングバッチリ! さすがゲーマー。



 2球目も真後ろにファール。芯を食えばヒットなのに、惜しい!



「タイム、お願いします」


「ターイム!」



 宅部やかべさんがベンチに戻ってくる。試験のヤマに外れたような暗い顔だ。



「ストレートにノビがある。俺の見間違い?」



 ノビのあるストレートは、バットの上をとおるので、フライや空振りになることが多い。ただ、ツーシームはシュート風に落ちるので、ノビはないはずだ。



「うーん、どういうことかしら?」


「おそらく、トラ化して手が大きくなったから、ツーシームのような微妙な変化がなくなったんだと思うよ」



 刈摩かるまはボールをもてあそびながら答える。



「獣化すると球質変わるって、厄介だなぁ」


「ツーシームがフォーシームになっただけやろ? 打てる、打てる」



 宅部やかべさんはバットをニギニギして、再び打席へ向かう。



 トラ塩の3球目はストレート。宅部やかべさんのバットの芯が、ボールをとらえられない! ボールが横に逃げた。



 ツーシームがフォーシームになったように、小さく曲がるカットボールが、キレのいいスライダーに変わっていたのだ!



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る