139球目 真ん中高めは危険じゃない

 天塩あまじおが帽子を取って、右腕で頭の汗をぬぐう。



「ジョージ! この程度のバッターで獣化すんな! ええな?」



 相手監督が口頭で指示する。ピンチにならないかぎり、この回の獣化はなさそうだ。



 14球目はツーシーム系のリズム。キャッチャーはど真ん中に構えている。思いっきり振れぇ、烏丸からすまさん!



「カアアアア! アッ?」



 蚊が止まるスローボールだった。烏丸からすまさんのバットは止まらず、空振り三振。



「ドンマイ、ドンマイ!」


「相手のスタミナけずったんやから、上出来よ」



 烏丸からすまさんは精気が抜け、燃え尽きて真っ白になったボクサーのようにベンチに座った。



 投球リズムをつかめたものの、非力な火星ひぼし東代とうだいは天塩のツーシームにバットが当たらなかった。



 これで、7回から天塩は6者連続奪三振だつさんしんだ。凄すぎる……。



 最終回は宅部やかべさんから始まるから、まだ望みはあるか。



※※※



 8回裏のマウンドには取塚とりつかさんが上がる。俺はファースト、真池まいけさんはベンチ、宅部やかべさんはセカンドの布陣だ。



 5番の美月みつき。4回にライト前ヒット打っている好打者に対して、真ん中高めのストレート。危ない!



 快音を残して、打球はライトへ。火星ひぼしが長い手を伸ばしてキャッチ。フ―、ワンアウト取れた。



 6番のベイル。7回にセンターオーバーのタイムリーヒットを打ったクラッチヒッターに対して、真ん中高めのストレート。ヤバイ!



 超快音を残して打球はセンターへ。山科やましなさんがジャンプして、打球を止めてくれた。心臓に悪いツーアウト目。



 7番の亜土あど。2回にツーベースヒットを打った後、連続三振。ホームランか三振の穴の大きい強打者に対して、またもや真ん中高めのストレート。マジかよ!



 豪快音を残して、打球はレフトへ。烏丸からすまさんが最後のカラス化を使って、捕ってくれた。息が止まりそうなスリーアウト目だった。



「ヒヤヒヤしたわ。何や、あのリードは?」


「ミスター・ユーカワのパワーなら、アウトに出来ると思っていました」



 取塚とりつかさんの鼻の穴の中から出た夕川ゆうかわさんと東代とうだいが喋っている。ピッチャーごとに上手くリードするのは、さすがIQ156ってとこか。



「さぁさぁ! みんな、逆転するよ!」



 グル監が手を叩いて、笑顔で迎えてくれる。



 まだまだゲームセットは聞こえない。



(続く)

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