138球目 投球リズムの違いがわからない

「ストライクツー!」



 烏丸からすまさんは、ツーシーム2球であっという間に追い込まれてしまった。金縛りにあったように、バットも体も動かない。



 天塩あまじおはゆっくり振りかぶり、3球目を投げる。



「ボール!」



 スプリットが落ちすぎてボール。首の皮1枚つながった形だ。



「グル監! タイムをかけて、烏丸からすまさん呼んで!」



 突然、真池まいけさんが切羽詰まった顔で叫ぶ。



「タ、タイム! 烏丸からすま君、こっち!」



 鳩が豆鉄砲を食ったような顔の烏丸からすまさんがベンチに戻っていく。ついでに、1塁ベースコーチの俺もベンチへ戻る。



 真池まいけさんがカバンからウォークマンを出して、洋楽を再生し始めた。



「まずはデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」を聴いてくれ」



 男性がアーを連呼するイントロから始まる。数秒ほど再生した所で停止する。



「次に、ルベッツの「シュガ―・ベイビー・ラブ」だ」



 これも、「レッツ・ダンス」同様、男性がアーを連呼して始まる。数秒ほど再生して停止。



「これが、一体何やねん」


天塩あまじおが振りかぶって、ミットにボールが来るまでのリズムと全く同じなんです。最初のアーから次のアーが始まるまで、スプリットなら「シュガー・ベイビー・ラブ」、それ以外のボールなら「レッツ・ダンス」と同じ」



 さすがロックンローラー。常人よりリズム感に長けている。



 改めて聞き直すと、「シュガー・ベイビー・ラブ」の方が「レッツ・ダンス」より、間延びしている。



「このリズム覚えて、スプリットは見送り、ツーシーム・カットボールは打っていけばええんか?」


「ザッツライト! 覚えられますぅ?」


「俺っちは聴覚と記憶力が抜群やで。任せとき!」



 烏丸からすまさんは5回イントロを聴いてから、打席に向かう。



 天塩あまじおの投球リズムを完全につかんだ烏丸からすまさんは、ツーシーム系をカットし、スプリットを見送った。



 粘ること13球。天塩あまじおが肩で息をし始める。これはフォアボール狙えるぞ!



(続く)

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